中島貞夫監督が残した名盤「ピラニア軍団」共同制作の三上寛が追悼カバー宣言、「はみ出し精神」歌で継承

北村 泰介 北村 泰介
映画監督の中島貞夫監督。「ピラニア軍団」ら大部屋役者たちと共にアウトローの世界を映画で描いた
映画監督の中島貞夫監督。「ピラニア軍団」ら大部屋役者たちと共にアウトローの世界を映画で描いた

 東映映画の巨匠・中島貞夫監督(享年88)が死去した。脂の乗った1970年代の中島作品に出演する一方、大部屋俳優たちの歌を収めたアルバム「ピラニア軍団」(77年)を中島さんと共同プロデュースしたフォーク歌手の三上寛(73)が、よろず~ニュースの取材に対し、亡き恩師への思いを語った。

 記者が「中島さんが…」と言葉を発した瞬間、ライブ後の紫煙をくゆらせていた三上はピッと背筋を伸ばし、絶句した。こちらから「亡くなった…」と言う前に、察していた。改めて死去した旨を伝えると、「そうですか…。亡くなりましたか…」。虚空を見つめ、言葉を絞り出した。

 「東映のピラニア(軍団メンバーだった)役者から電話があって、『監督、(体調)悪いらしいぞ』と聞いていて、覚悟はしていました」。そう明かした三上だったが、再び「そうですか…。亡くなりましたか…」と繰り返し、ため息をついた。喪失感が伝わった。

 三上は俳優として「狂った野獣」「実録外伝 大阪電撃作戦」「沖縄やくざ戦争」と、いずれも76年に公開された中島監督の3作品に出演。特にファンの間で〝最高傑作〟の呼び声も高い渡瀬恒彦さん主演のアクション活劇「狂った野獣」では本人を彷彿させるフォーク歌手を演じた。

 「渡瀬さんも貞夫さんとやっていると自由な芝居をしていました。(バスジャックされた車内での極限状態を描いた)『狂った野獣』ではスタントマンなして、自分でバスを運転して、横転してケガしたんですから。(別作品でも)本番で酒を飲むシーンがあって、いきなり渡瀬さんは(グラスの)コップをかみ切っちゃうんだから。松方(弘樹)さんが『いや~、俺はそんな芝居できないわ』って(脱帽して)あきれるくらい。中島組ではそんな役者魂を見てきました」

 三上は「一番好きな監督でしたから。貞夫さんの家で飲んで泊まって、朝飯を3杯も食ったら、監督に『お前、起きてからよく飯3杯も食えるなぁ』と、あきれられた思い出があります」と懐かしんだ。

 知る人ぞ知る「幻の名盤」も作った。77年4月にリリースされたアルバム「ピラニア軍団」だ。三上が作詞作曲し、中島監督と共同プロデュース。当時25歳の坂本龍一さんが全13曲中、7曲を編曲した。YMO結成前年、まだ「教授」ではなく、長髪のバンカラな容貌で「アブさん」と呼ばれていた時代だ。

 「ビラニアのレコードもみんな貞夫さんの家で打ち合わせしたんですよ。この歌は誰が歌って、あの歌は誰にしようとか。ピラニア軍団には紅一点、橘麻紀という女優がいて、今は店をやっているんだけど、その彼女から先日電話があって、『たまには飲みに来なよ。いま(軍団の元メンバー)成瀬(正孝)が飲みに来てるから』って」

 46年を経ても中島監督を「村長」とするピラニアの絆は固い。ちなみに、橘は「菜の花ダモン」という曲を、成瀬(当時は成瀬正)は「俺(れーお)」という曲を歌い、同アルバムに収録されている。

 「ピラニアの歌は自分で歌ってこなかったんですけど、これから先は、全部ではないけど、少しずつ、自分のライブで歌うようにします。貞夫さんに対する追悼というか。それに、貞夫さんを慕うピラニアの連中だって死んでいってるからね」

 アルバムの中で、「だよね」を歌った川谷拓三さん(95年死去、享年54)をはじめ、「役者稼業」を歌った志賀勝さん(20年死去、享年78)や「関さん」を歌った野口貴史さん(20年死去、享年81)らが近年亡くなった。また、「狂った野獣」だけでなく、「鉄砲玉の美学」(73年)、「ジーンズブルース 明日なき無頼派」「唐獅子警察」(ともに74年)といった中島作品で躍動した渡瀬さんも同アルバムに〝冷かし〟というクレジットで参加し、小林稔侍、片桐竜次ら6人が順番に歌った曲「ソレカラドシタイブシ」で合いの手を入れていたが、17年に72歳で他界した。

 中島監督は同アルバムのライナーノーツで「彼等に共通してあったはみ出し精神が、逆に役者としてのユニークさを産み出す母胎でもあった」「はみ出し者ということの外に、彼等に共通しているもう一点は、キャメラの音が、匂いが耐らなく好きだということだろう」(原文ママ)と記した。自身は東大卒のエリートでも、日の目を見ない大部屋役者ら底辺にいる者への視線を持ち続けた。そして「キャメラ」という言葉に象徴される映画へのこだわり。この2点が中島監督の人生には貫かれていたといえるのかもしれない。

 三上はその精神を引き継ぎ、このアルバム収録曲から「追悼歌」を選んで歌い続けていくつもりだ。

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