前明石市長の泉房穂氏「敵はマスコミ!!」建前マスコミ、本音マスコミとの戦い語る

よろず~ニュース編集部 よろず~ニュース編集部
自著「政治はケンカだ!」の会見を行った泉房穂氏=都内
自著「政治はケンカだ!」の会見を行った泉房穂氏=都内

 前兵庫県明石市長の泉房穂氏(59)が27日、都内で新著「政治はケンカだ! 明石市長の12年」出版記念記者会見を行った。

 市長を任期満了で退任した翌日、5月1日に発売された著書。様々な感想が届き「これは私にリアルに起こったことで、ホンネで書いた本ですけど、読まれた方から『えっ、ビックリ!』と言われることが多いんです」と、政治行政の実情が、想像以上に知られていないことに驚いたという。発売3週間で3回の重版。4刷2万5000部を突破したが、「もっと売れると思っていたんですけど、すっごいショックで(笑)」と話した。

 その真意を「私は市長を12年やってきて、(その間)奥歯に物が挟まるような感じでしか喋れなかったんですよ。それで5月1日に公職を離れたんで、明石市だけでなく日本の政治のブラックボックスの中身を見せよう。『政治は変えられる、町は変えられる、私達の社会は変えていける』というメッセージを込めた本なんです。『読んだら元気が出た』『勇気が湧いた』とよく感想を頂くんですけど、この程度(の販売部数)では世の中変わらんがなと思って」と説明。歯痒さを感じており「(ビッグ)アイドルの写真集に勝つくらいでないと何も変わらないと思って。だから頑張りたい」とも語った。

 泉氏は「“政治は誰がやってもほぼ同じ” “国にはカネはもうない” という思い込みの両方ともに間違いで、政治はやる人次第で違ってきますし、ツイッターでも言っていますが、“お金がない”というのは政治の言い訳なんです。私達はすでに他の国と同じくらい負担(国民負担率 47.5%)しているわけですから、他の国でできている政策なら、日本でもできないわけはない」と、読者に届けたい思いを語った。

 同著では苦しい境遇から「明石市長になる」と10歳で決意した幼少期、「トップが決断すればできる!」と明石市で実現した〝5つの無料化“をはじめ数々の改革政策が記されている。「誰一人取り残さない」「優しい町づくり」を目標に掲げ、「9年連続人口増」「8年連続税収増」などを達成。明石市は全国屈指の注目自治体となったが、その一方で泉氏は議会、政党、役所、宗教・業界団体、マスコミとの激突を体験。「闘いの記録」の様相も呈している。

 明石市を例にとり「(お金のない)地方自治体としては、やりくりしかないと。そのやりくりだけで、子供向け予算を2・3倍にできた。国にできないわけがないんです!」と熱弁。政治に必要な機能として、「みんなから集めた税金を使って、みんなに安心を提供する。まさに困ったとき、いまハッピーじゃない方に、しっかり手を差し伸べるのが政治本来の姿だと、子供の頃から思い続けてきました。いまの政治状況はそれとは違うでしょ」と、自身の理念を示した。

 泉氏は「いまの選挙制度のいいところは誰でも1票で、有名人でも金持ちでも1票。だから、自民や公明、各種団体よりも市民がいちばん多いのだから、市民を見て、市民のほうを向いた政治をやれば、組織に頼らずとも選挙は勝てますよ。実際(先の統一地方選で)私の推薦した7名は、後継市長、県議、市議7名、全員当選した」と述べた。選挙における「最大多数は市民である」ことを強調した。

 現在の政治家に伝えたいことを問われると、「10歳にして、冷たい故郷・明石を心から憎み、冷たい社会を優しくするために燃えていた人間です。10歳で誓って、今年8月に60歳になりますけど、50年かけて、冷たい明石を優しく変えることをやり遂げられたと思います。自慢しますけど、選挙のときは私がマイクを握ったら市民が並んで、順番にありがとうございますと言ってくれて。いまも駅前や街中で私を見つけると、お礼を言われる状況です。市民のために政治をすれば、市民はちゃんと受け止めるんだと、私は自信を持って言えます。明石市民自体も大きく変わり、お互いに助け合うようになった。そして我が町明石に誇りを持つようになりました」と自身の体験を語った。

 その上で「明石でやり遂げられたことは、明石以外でも、全国どの町でもできる。また本来これは国がやるべきことであって、国がやらないからやむなく明石市が全国初でやったことが多い」と、持論を展開した。

 公職から離れ、現在どのような思いを抱くのか。「2つあって、1つはホッとしている。2つ目は “さて、これからどうするか” です」と泉氏。ホッとしている部分としては「市長は最終責任を負う。災害があるかもしれない、事件・事故があるかもしれないというなかで、毎日気の休まる日はなく、酒を飲んでいても、ぐでんぐでんに酔っ払うわけにはいきません。明石を離れていてもイザというときどう明石に戻るか、24時間365日気にする日々でした」と明かした。

 2つ目の “さて、これからどうするか” は「人生1周の60年が終わって還暦です。それで、さて2周目に何をするかと。市長は、中間走者のイメージで、箱根駅伝でいえば険しい山の区間を12年間最後まで走り切って倒れ込んだ状況かな。この後、もう1回駅伝に出るのか、マラソンに出るのか、違うスポーツに転じるのかはこれからです。ただ、おかげさまで倒れ込んだ後も余力がまだあるので、自分の可能性を活かした形で何かしらお役に立ちたいという気持ちはあります」と、意欲を示した。

 目下の敵は?という質問には、「マスコミ!!」と即答。この敵という「マスコミ」にも2種類あり「建前マスコミと、本音マスコミがある」という。

 建前マスコミについては「建前が強い。その象徴は、全国紙とかテレビのキー局など。もちろん全てがとは言いません。古い頭で古い発想で『国にはもうカネがないから国民が負担するしかない』『明石市がうまくいっていると言うが、何かウラや皺寄せがあるのでは』という思い込みなんでしょうかね。取材に来てカメラを回したのに放送されなかったり、新聞記者が来て取材したのに記事にならなかったり。どうして明石市の現実を受け止めて頂けないのか」と嘆息し、「国民の側から見て、国民の側から発信して欲しい。でも今は、権力サイドから国民に刃を向けている状況で、残念です」と憂う。

 一方で「本音マスコミ」へは「私の場合はネットメディアや、新聞だとスポーツ紙、地方紙、雑誌メディアは、好意的な報道が多いです」という。「最近ネット媒体は権力に対して一定の歯止めになっていて、大マスコミだけではなく、幅広い情報を入手できる状況なのでだから(国民の情報収集バランスが)持ちこたえられているというか」と話した。

 自身のSNS利用法については、「いまはツイッターに限定してやっていますけど、ユーチューブとかオンラインサロンとかいろんなツールがありますし、オンライン配信も含めてもう少し可能性を広げていきたい」と、研究中であることを明かした。

 岸田首相にいま必要なものは?との問い掛けには、「思ったより即断即決できる方。でも、ベースのところで庶民感覚に疎過ぎると思います。いま生活は大変で、負担増や、扶養控除廃止なんて、言うべきときでない。総理が決断すれば、(負担増なしでの子ども予算増額は)できる! そのための総理です。予算編成権も人事権も事実上あるんだから。息子さんを大事にするくらい日本の子供を大事にしてほしい。街中のスーパーで買い物して高い物価を実感して欲しい。『これでは国民は持ちこたえられません』ぐらい言う人を、早急に近くにつけんと」と、苦言を呈した。

 同著には、今後の展望も書かれている。国政に再び関わることはあるのか?「基本的に『政治は選挙で通ったものだけでする』というわけではないと思っています。いまの日本の政治がいいとは思えないので、日本の政治を変えるべく自分の役割を果たしていきたい。映画で例えれば、監督とか主演、助演などいろいろありますけど、市長だったので、明石市で主演で監督、脚本もやっているような感じでした。国政に関して、自分が監督なのか、脚本なのか、主演なのか助演なのかを含めて、これからやと思っています。もしかしたら観客かもしれませんけど(笑)。ただ単に見ているだけだとつまらないから、もうちょっとそこは関わりたいと思います」と、心境を語った。

 また、「10年、20年、30年後を作るようなメッセージを発していきたい。例えば、政治家に当選したい人向けではない、いま10歳の子どもたちをしっかり応援するような政治塾(授業)をやって、政治や政治家の本当の魅力も伝えたい」と、熱い想いを語った。短い質問にもハキハキと勢いよく話し続け、エネルギー量の多さを垣間見せた泉氏。好きな歴史上の人物は?との質問には「マザー・テレサです」と答え、社会貢献だけでなく、その政治感覚に惚れ込んだという。「ええことをするためには、綺麗事だけではなく冷徹に目的達成のために行動できるのが凄いんです。みんなの応援をもらって目的を達成するリアルさは政治家に通じるものがある。日常生活の延長線上に政治もあるし、宗教もある」と話しつつ「マザー・テレサは何も持たなかった。そこまで徹底できるのも凄い。私は中途半端だから、結婚もして仕事もあって家も持っているから、そういう意味ではセコい」と苦笑。硬軟を織り交ぜ、語りかけ続けた。

 ◆泉房穂(いずみ・ふさほ) 1963年、兵庫県明石市二見町生まれ。県立明石西高校、東京大学教育学部卒業。NHK、テレビ朝日でディレクターを務めた後、1997年に弁護士資格を取得。2003年に民主党から出馬し衆議院議員に。11年5月から23年4月まで明石市長。「5つの無料化」に代表される子ども施策のほか、高齢者・障害者福祉などに取り組み、市の出生数、人口、税収をそれぞれ伸ばし、「明石モデル」として注目された。

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