大ヒット韓国映画を日本の人気スターでリメイク『最後まで行く』岡田准一主演 独自要素で深まる緊迫感

伊藤 さとり 伊藤 さとり
画像はイメージです(marekbidzinski/stock.adobe.com)
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 2014年公開時に映画ファンの間でも話題となった韓国映画『最後まで行く』。この面白さはすでに保証済みで中国、フランス、フィリピンでもリメイクが決定したほどでした。それを日本でリメイクというチャレンジングなことをやり遂げたのが『新聞記者』(2019)で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した藤井道人監督。

 今や日本の人気監督の一人であり、定期的に作品を撮り続けている現在36歳の売れっ子監督が主演に選んだのは岡田准一という日本のスターと『ヤクザと家族 The Family』(2021)や『アバランチ』(2021)でもタッグを組んだ綾野剛。しかも韓国映画では描かれなかった主要2人のバックボーンが色濃く描かれ、個人的にはリメイクよりも満足度の高い作品が誕生したと感じています。

 物語はオリジナル同様、雨が降りしきる夜間の運転シーンからスタート。上司から裏金との関与についての電話と妻(広末涼子)から母危篤の電話を立て続けに受けて苛立っている刑事・工藤(岡田准一)は、誤って人を轢いてしまいます。道に倒れている男がすでに息絶えていることを知ると、咄嗟に車のトランクに死体を隠す工藤。途中、検問所に引っかかるものの監察官の矢崎(綾野剛)の仲裁でなんとか乗り切ることができ、その後、亡くなってしまった母親の葬儀場へと向かうのですが、やがて事態は思わぬ方向へと向かっていきます。

 オリジナルをリスペクトした手法が随所にある本作。まずは韓国ノワールにありがちな青みがかった色合いと、錆びついた日付のテロップ。さらにオリジナル版よりも主人公の感情の起伏が激しく、表情豊かでややコミカルな岡田准一の演技はまるで韓国俳優さながら。さらにストーリーラインを活かしつつ、日本版は年の瀬に設定することで、大晦日までのカウントダウンにより緊迫感を与えています。

 他にも韓国版との違いは多数あり、オリジナル版では、綾野剛演じる矢崎は中盤に登場しますが、日本版では冒頭10分ほどでスクリーンにお目見え。雨の中、主要人物としての凄みある佇まいで存在感を見せつけ、チックなどを取り入れた演技で矢崎の精神的ストレスが限界状態にあることを表現しています。他にも死体の男(磯村勇斗)のバックボーンが回想シーンとして描かれたり、オリジナルでは妹だったキャラクターが工藤の妻に変わり、広末涼子が演じることで原作にはなかったシーンが多く描かれるなど、登場人物それぞれを深掘りしていたのでした。

 個人的には、日本のメジャー映画で多く見受けられる「最後まで描き切る」ことへの疑問が、今回は払拭されていた点。それは『新聞記者』でも証明済みでしたが、普段から海外のアート系映画を観ている藤井監督ならではの手法であり、大手、東宝にとってはなかなかない取り組みだった気がします。そして何より、韓国の映画業界に精通していて『22年目の告白−私が殺人犯です−』(2017)や『見えない目撃者』(2019)を日本版リメイクとして手掛けてきたROBOT・小出真左樹プロデューサーの映画企画に対する先見の明を忘れてはいけないのです。公開は5月19日。

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