東大法学部卒業「幽☆遊☆白書」「AKIRA」声優・佐々木望 受験秘話の自著朗読で笑顔招く「もう部分点が止まらない‼」

山本 鋼平 山本 鋼平
イベントで朗読を行う佐々木望(左)=都内
イベントで朗読を行う佐々木望(左)=都内

 「幽☆遊☆白書」浦飯幽助、「AKIRA」鉄雄、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」ハサウェイ、「MONSTER」ヨハンなどのアニメ作品、米ドラマ「ビバリーヒルズ青春白書」デビッドの吹き替えなど、数々の人気作品で主要キャラクターを演じた声優の佐々木望が14日、都内で自著「声優、東大に行く 仕事をしながら独学で合格した2年間の勉強術」(KADOKAWA)の刊行記念イベントを開いた。

 受験勉強、学生生活にまつわるトーク、書籍の朗読を展開。二次試験の数学をつづった箇所を、情感たっぷりに読み上げた。

「解く問題と手をつけない問題とを最初に決めて、速く解けそうな小問から解きました。部分点狙いなので、点数の最大化をつねに意識しながら、書けることをできるだけ書いていきました。

冒頭にまず解答の「方針」を文書で書く!→きっとこれだけで部分点が1、2点もらえる!(はず)

数式だけを書き並べるのではなく、「次に」「これを変形すると」「なぜなら」「したがって」などの言葉を入れて数式同士の関連性を示す!→きっとここでも部分点が1、2点もらえる!(はず)

途中にもところどころ思考の過程を丁寧に書く!→もう部分点が止まらない‼(はず)」

 次第にトーンが上がる「はず」の連呼が、会場に笑いを引き起こした。その笑い声のように、2時間のイベントは終始和やかに進んだ。

 佐々木は44歳で東大受験を決意し、2年間の独学を経て2013年に東大文科一類に合格。仕事と両立しながら休学を挟み20年に東大法学部を卒業した際、入学と併せて公表し、大きな話題となった。

 1986年のデビューから十数年たった頃、声帯を痛めたことをきっかけに、発声と演技を基礎から学び直した。演技の関連書などを英文で読む機会が増えるにつれ、英語学習への関心が高まった。2010年秋、米ボストンに語学短期留学を行った際、ホームステイ先で社会人経験を積んだ後に大学で学び直した同世代のホストマザーから刺激を受けた。学問への欲求が高まり続け、翌年に東大受験を決意した。

 「英検一級」「全国通訳案内士」を取得していた英語を得意科目に据えた。数学は趣味として取り組んでいたが、日本史、地理、古文・漢文、センター用の地学は一からのスタートだった。

 「何をすればいいのか分からず、合格体験記を一通り読みました。合格者の話には、学校や予備校などのデータの蓄積も反映されているはずですから。参考書も大体共通してくる」と振り返った。一方、日本史は流れをつかむことが大事だという意見を参考に、教科書の通読を試みたが頭に入らず、夏に過去問と解答例と解説を記憶する方法に転換。カフェ巡りをしながらの勉強など、実践を通して自分なりの勉強法も構築していった。

 「予備校に通う時間はありませんでしたが、模試を受け、合格体験記から参考書、勉強法を試行錯誤していったので、独学とはいっても、自分を手伝ってくれる人はたくさんいたと思います。ケストナーの『飛ぶ教室』が子どもの頃から大好きで、いまだ読み返しているんですけど、学校の子どもたちと自分も一緒に学ぶような空想をしました。周りの環境、たくさんの人の力があったからこそだと思います」

 空想好きな少年時代、声優としての紆余曲折、先輩声優からの金言、東大でのキャンパスライフ、学ぶことの楽しさと意義など、単なる合格指南書にとどまらない内容。「自分の言葉で伝えたかった」と3年をかけ、佐々木自身が文章をつづった。

 「東大法学部の勉強は難しくツラかったけれど、困っている自分を俯瞰(ふかん)して見るのは面白くもあります。演技でも感情に任せるのではなく、役になりきるのとは違うアプローチで、客観的な〝もうひとりの自分〟が司令塔になっています。普段の生活、仕事、勉強でも同じ。その演技者モードで物事を面白がれるんです。面白ければ何でもいい訳ではないけれど、見る角度を変えることで楽しく、そして楽になったのかもしれない」

 何の役に立つのかという打算、意味はあるのかと問いただす冷笑が充満する世の中で、純粋な楽しみから生まれた東大への道を、自然体で臨む姿が印象的だった。「一歩進むと違うものが見えてくる。誰にでもチャンスはあります。一大決心ではなく、気軽にやって、嫌だったらやめる。自分を追い詰めないように、楽しみながらチャレンジしてもらえたら嬉しいです」。佐々木はそう呼びかけて、柔和な笑顔を浮かべた。

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