女性は令嬢系、男性はタイムリープ!有名書店員に聞いた注目のコミックジャンル

山本 鋼平 山本 鋼平

 電子コミックは2018年に売り上げが紙コミックを追い抜き、2021年には紙と電子合わせて6759億円と過去最大規模に上った市場をけん引している。総合電子書籍ストア・ブックライブの書店員で、10年以上に渡って年間2000冊以上のマンガを読み続けるすず木さんに、2023年の人気動向を聞いた。女性マンガは〝令嬢系〟、少年・青年マンガは〝タイムリープ〟作品を注目ジャンルに挙げた。

◆女性向けコミックは〝令嬢系〟が人気、売り上げ上位の約半数

 激減するコミック雑誌を穴埋めして余りある躍進を続ける電子コミック。すず木さんは「異世界転生系のマンガはここ数年ヒットしていて、男性向け作品が多かったですが、女性向けの作品が非常に増えています」と指摘。昨年の同電子書籍ストアでの女性マンガ売り上げトップ50の約半数は、同ジャンルから派生した〝令嬢系〟だった。 

 「王道パターンは、虐げられていた令嬢が次第に認められて、公爵や皇太子、プリンスに溺愛されていくものです」とすず木さん。昨年の女性マンガ売り上げ1位は〝令嬢系〟作品である「『きみを愛する気はない』と言った次期公爵様がなぜか溺愛してきます」(画・水埜なつ、作・三沢ケイ)だった。「花嫁修業をやめたくて、冷徹公爵の13番目の婚約者になります」(作・C.C、画・空柄)も高い人気を誇った。

 2020年頃 に「虫かぶり姫」(漫画・喜久田ゆい、原作・由唯、キャラクター原案・椎名咲月)が〝令嬢系〟の先駆者として人気を高めた。すず木さんは「最近は悪役令嬢など、さまざまな種類の令嬢が増えています。出版社では同ジャンルの専門レーベルも増えてきました」と語った。

 作品の流れはほぼ決まっている。「『シンデレラ』のまま母のようなドロッとしたシーンもありますが、総じて盛り上がりが早い。主人公がサクセスして幸せになる展開は、すさみがちな世の中と対照的に、読んでいて安心感があります。最近はスマホでマンガを読む方が増えているので、移動などちょっとした隙間時間にサクッと読めて、爽快感がある作品が好まれています。難しい設定よりはライトな設定が受けていますね」と分析した。そのタイトルの長さは、男性向け作品と同様、読みたい作品を手早く探す役割を担っている。

 一方で、「ちはやふる」(作・末次由紀)などの人気作はあるものの、重厚なストーリーマンガは明暗が分かれる。突出して売れる作品はあっても、人気ジャンルを形成するような潮流にはなりにくいという。特にピュアな恋愛を描く〝アオハル〟ものが一時期の勢いを失っており、それに反して〝令嬢系〟はさらに拡大中。最近は新たに派生した〝聖女〟が注目されている。

 すず木さんは「世界を救うような能力を持っている聖女が、その地位を狙う他の女に陥れられる。追放などに遭い、さあどうなるって話が多いですね」と王道パターンを解説。「聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました」(画・朝谷コトリ、作・神山りお、キャラクター原案・たらんぼマン)、「真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです」(作・鬱沢色素、画・松もくば、キャラクター原案・ぷきゅのすけ)、「王妃になる予定でしたが、偽聖女の汚名を着せられたので逃亡したら、皇太子に溺愛されました。そちらもどうぞお幸せに。」(画・コロポテ、作・糸加(ツギクル)、 キャラクター原案・はま) を注目タイトルに挙げた。

◆男性向け作品は「東京卍リベンジャーズ」に続くタイムリープものに注目

 令嬢、聖女がキーワードに上がった女性マンガから少年・青年マンガに目を向けると、昨年の同ストア少年・青年マンガ売り上げ1位を記録した「東京卍リベンジャーズ」(作・和久井健)に続く作品の台頭が注目される。すず木さんは「もともとタイムリープ作品には一定の人気がありましたが、各出版社で同じジャンルの作品や新連載が増えてきました」と現状を語った。

 「リベンジャーズ」はテレビアニメ化とともに単行本の売り上げが急増し、実写映画の公開で購読層の女性比率が4割を占めるなど、メディアミックスが奏功した作品でもある。すず木さんは「ヤンキーという昔からあるジャンルにとどまらなかった点が大きいと思います。ケンカして荒くれでアウトローな古いヤンキー像ではなく、ヒーロー的な描かれ方をしています。先が読めない展開でどんどん続きを読んでしまうストーリーも優れていると思います」と感想を述べた。

 そんな中、すず木さんは「ナインピークス NINE PEAKS」(作・平川哲弘)を注目作品に挙げた。「ヤンキーの主人公がお父さんを亡くされて、お父さんの過去を調べたらものすごいヤンキーで、お父さんが現役高校生の時代にタイムリープする作品です。恋愛要素もあり、さらに自分のルーツを探すという点が、今の時代にウケるのではないか。カッコよくて、男気あふれるキャラクターもいい」と説明した。

 「君が獣になる前に」(作・さの隆)も挙げた。すず木さんは「ある日突然街中でテロが起こって、自分の同級生で幼馴染みの女の子が犯人で死んでしまう。そんなことをする子じゃない、と主人公がタイムリープして真実を追います。女の子を救おうとするけれど、うまくいかない。最近ドラマで人気のノワールサスペンスの作風です。タイムリープと、少しダークな側面がある作品なので注目したいですね」と話した。

 コミック市場が拡大を続ける中、すず木さんは「ライトに読める作品と、じっくり読む作品で二極化している。どちらかが好きな方はいらっしゃると思うんですけれども、両方読んでいただいて、それぞれを楽しんでいただけたらいいなと思います。ここ2年ぐらい、総じて絶望スタートの作品が多いので、どのように浮上していくかに注目するのも面白いと思います」と総括した。

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