動物が地震を事前に察知するという説がある。2月にトルコとシリアで発生した大地震の報道を受け、ネット上では「動物の地震感知説」が飛び交っていたというが、科学的な根拠のある話なのだろうか。ジャーナリストの深月ユリア氏が、日本における動物行動学者の第一人者に見解を聞いた。
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2月6日に発生したトルコ・シリア大地震を「動物たちが感知していたのではないか」という情報がインターネット上で飛び交っている。
というのも、英BBCが「地震発生前に犬の遠吠(ぼ)え、鳥や羊の群れの移動が目撃されていていた」と報じたのだ。今回のトルコ・シリア地震に限らず、かねて「地震の前にはナマズが電磁波を感知して異常行動を起こす」「地震前にクジラやイルカが浜に打ち上げられる」という説はある。
麻布大学獣医学部動物応用科学科名誉教授の太田光明氏は2000年発表の論文「地震前兆に伴う動物の異常行動に関する研究」で、「人間と日常的に生活している家庭犬6頭のうち、少なくとも2頭に顕著な異常行動を認めた」などと記している。
しかし、動物行動学者で東北大学名誉教授の佐藤衆介氏によると、「現状、はっきりとした科学的な証拠はない」という。佐藤氏は共著「家畜行動図説」「動物行動図説」(ともに朝倉書店)や、著書「アニマルウェルフェア―動物の幸せについての科学と倫理」(東京大学出版会)などで知られる第一人者だ。
佐藤氏は筆者の取材に対して、「地震前の動物の反応に関する調査は(一部の研究者を除いて)少なく、人間は科学的にも地震を予知できないので、動物が何を感じて反応するのかも類推できません。牛の追跡調査・研究をしてきましたが、震度5くらいの地震の前には何の行動変化もありませんでした」と解説した。
動物が事前に地震を察知するという説が本当ならば、その研究を進めれば、人間の地震対策に役立つだろう。だが、その期待が大きいが故に「噂」が広がったのかもしれない。いずれにしても、動物の地震察知能力について、科学的な根拠は不明。今後も研究は続けられていくことになるだろう。