SNSや専用アプリなど、さまざまなメディアで読まれるようになった漫画作品。ここ最近では、漫画のコマを映し出し、BGMやセリフを加えた動画で楽しむYouTube漫画も続々と増え続けている。そのスタイルで、音楽家の細野晴臣を主人公に、テクノバンド「イエロー・マジック・オーケストラ(以下、YMOにて表記)」の結成から成功までを描いた作品がコアなファンから熱狂的に支持を受けた。
配信から2週間ほどで10万回再生を記録し、数百件を超えるコメントが寄せられた。こうしたテーマで反響を得るのは異例と言っていいだろう。そこで今回は、作者である田中宰さんにインタビューを行い、この作品が生まれるきっかけからYMOへの思いについて話を聞いた。
大学の卒業制作だった作品が思わぬヒットに
──田中さんは大学院で4コマの研究をされているそうですね。それは、どういう内容なのですか?
田中宰さん(以下、田中) “起承転結”という前提を覆す、理屈として成立していない4コマが、主に東アジア圏では広く受け入れられています。それに、新たな理由づけをすることを目的に研究しています。
──難しそうな研究内容ですね(笑い)。なぜ、4コマを研究しようと思ったのですか?
田中 それが、YMOなんですよ。メンバーはそれぞれ別の畑の出身で、嗜好も異なることから、その人生を辿っていくと過去の音楽を広く網羅することができました。さらに、70年代から現在にかけての技術革新に、音楽的側面から常にアプローチをかけていたこと。坂本龍一に関しては音楽に留まらず現代アートへ踏み出しています。このおかげで、メディアというものに対して自覚的に取り組む姿勢を学んだようなものです。私が今4コマ漫画というメディアについて研究しているのも、原体験にYMOがあったからです。
──YMOをきっかけにメディア全般に対する関心も高まったと。今回のYouTube漫画は、この手の作品としては異例のヒットといえると思います。ご自身としては、この成果をどう感じられますか?
田中 ある意味では狙い通りですが、ここまでとは予想していませんでした。というのも、YMOは、最近になってさまざまなインタビュー本が出版されたり、メンバー本人も原点回帰する活動をしていたり、さまざまな形で彼らの活動がまとめられています。またQueenやエルビスプレスリーなど、かつてのスターを映画というエンタメに落とし込む流れもありました。ところが、コアなファンが多いこともあるでしょうが、なかなか外部からそのアプローチをする人がいなかったのですね。そうした流れが根底にあるように思います。何より、これはもともと、大学の卒業制作作品だったのですから。
──なるほど。では、YouTube漫画として創作する上で、どんな点に最も配慮されたのですか?
田中 実は、編集もアテレコも全部自分でやっています。その中で、最も時間をかけたのが、セリフの間です。これに関しては私のセンスですが、あえて何秒か空白を入れる、数コンマずらす、ということを夜通しやっていました。それが、この作品独特の空気感や雰囲気づくりに繋がったように思っています。
──確かに、セリフがとても印象的で、作品の中で際立っているように感じました。では、最後に今後の創作活動について教えてください。
田中 今作で、主にロサンゼルスでのライブまでを取り上げましたが、重要なサポートメンバーである渡辺香津美と矢野顕子をカットして構成しました。やはり忸怩たる思いが残っているので、続編にて回収できたらと思っています。次回は、『パブリックプレッシャー』から『BGM』あたりまでを焦点としていますが、今は資料集めと整理段階なので、あくまで仮としておきます。
各所にYMOへの深い愛を感じさせる田中さんの言葉の数々。YMOはもちろん、その周辺人物のヒストリーを、今後どのような切り口から取り上げ、漫画として表現してくれるのか。楽しみでならない。
◆◆田中宰さんInformation
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