心の栄養剤となるインド映画 実話ベース『スーパー30』世界が注目する学習塾

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「スーパー30 アーナンド先生の教室」のワンシーン=(C) Phantom Films, N&G Ent, Reliance Ent, HRX Films.
「スーパー30 アーナンド先生の教室」のワンシーン=(C) Phantom Films, N&G Ent, Reliance Ent, HRX Films.

 インド映画『バーフバリ』が日本でロングランヒットを記録し、絶叫上映も行われた2018年、来日したS.S.ラージャマウリ監督は「インドでは上映中、役者の声が聞こえないほど叫び声がしたり、踊ったりする」と語りました。

 その理由はインドでは映画館は体感する娯楽の場として考えられており、作品の多くに歌と踊りが導入されています。実際、インドは世界一の映画大国であり、年間1800本以上の作品が製作されているのです。しかも『ダンガル きっと、つよくなる』、『パッドマン 5億人の女性を救った男』といった実話を映画化したものも多数あり、インドの英雄を知る機会も増えています。

 本作『スーパー30 アーナンド先生の教室』(公開中)もそんなインドの英雄のひとり、アーナンド・クマールの物語です。頭脳明晰でありながら貧しさで旅費を払えず、ケンブリッジ大学に留学できなかったアーナンドが立ち上げたのが「スーパー30」という私塾。ここでは毎年、経済的に恵まれない家庭から優秀な30人を選抜、寮や食事、教材を無償化し、競争率100倍以上と言われるインド工学大学に合格する為のプログラムを受けられるのです。実際、2008年、2009年、2010年、2017年には全員を合格させ、アメリカの「タイム」誌ではアジアで最も優れた学習塾と称されるなど世界で注目を集めています。

 しかも無償で塾を開校したアーナンドに対して教育界の反対勢力から脅されたり、襲撃を受けたりした事実も、脚色はあるものの描かれるという、今までの教師モノとは毛色の異なる作品に。もちろんインド映画特有の登場人物の思いを表現する歌と踊りも多数登場。その他、スローモーションと決めカットを多用した分かりやすい見せ場も随所にあり、子ども達の学習シーンでは頭の中に浮かぶ数式がCGで浮き上がったりと遊び心ある歌唱シーンも見所です。

 そんな本作の主人公アーナンドを演じるのは、インドのスター俳優リティク・ローシャン。彼の名演も涙を誘いますが、後半から30人の子ども達へと視点は移行、実は彼らは元々俳優ではなく演技経験ゼロの子ども達で、実際に「スーパー30」が始まった州を中心に行われたオーディションで選ばれた新鋭メンバーだそう。これもまた「裕福でなくとも能力があれば夢は叶えられる」といったアーナンド・クマールの志から影響を受けて生まれた映画らしい活動。

 更に今秋は『バーフバリ』のラージャマウリ監督の最新作で、2022年インド映画世界興収No.1を記録した『RRR』も10月21日公開決定。不遇から栄光を掴む展開の多いインド映画は、世界中の一般市民に希望と明日への活力を与える強烈な栄養剤となり現代人の心を躍動させることでしょう。

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