ケニアで呪術医がミツバチを操って家畜泥棒を撃退し、盗まれたヤギと子牛が戻ってきたという海外報道があった。「呪術医」とは医療効果を超自然的なものに求めたり、治療する能力があるとされる医療従事者のことで、呪術師とはまた違う存在だ。ジャーナリストの深月ユリア氏はその内容を紹介し、元養蜂家でミツバチに詳しい人物から見解を聞いた。
◇ ◇ ◇
ケニアでは多くの人々が魔術や呪術の存在を信じている。そして、時おり「呪術医」と呼ばれる特殊能力を持つ者たちが「呪術」を使って病気や怪我を治療したり、顧客の悩みを解決している。
海外メディアでは、「シチズン紙」デジタル版(5月28日付)の報道によると、ケニアで起きた家畜盗難事件を呪術医が解決したという。
5月27日、 トリバート・インビアク氏(42)のヤギと子牛が盗まれた。同氏は事件を解決するように、呪術医に依頼したところ、「犯人は2日後に家畜を返しに来る」と告げられたという。呪術師のお告げは的中し、犯人の ヒラリー・モマニー(22)、ジョン・ブカツィオ(28)、ウィンストン・ムティエール(20)らは、ヤギと子牛を返しに戻ってきたのだ。犯人らは全身から出血していて、ミツバチの大群に襲われたそうだ。
ミツバチは呪術医が飼っていたものだったが、呪術医はミツバチを操ったのだろうか。ケニアでは他にも泥棒を呪術医の操るミツバチに襲わせて、盗まれた物品を取り返す、という事件が報告されているが、人間がミツバチを操り人を襲うよう仕向けることは可能なのだろうか。
元養蜂家で狩猟家の石橋明博氏に取材したところ、「蜂たちを操って人を襲わせる、という芸当はかなり難易度が高いと思います。蜂はほとんどの期間を巣の中で内勤蜂として幼虫や女王の世話をして過ごしますので、その巣の中の蜂を総動員して特定の家や人間を襲わせる、という現象を誘導するのはかなり難しいと思います」「ただ、蜂には大好きな花があります。ニホンミツバチの場合、キンリョウヘンというユリ科の花に誘引物質があり、春先にキンリョウヘンを置いておくことで、ミツバチを呼び寄せることができます。家畜泥棒の家にそういう植物を密かに置き、それによってミツバチたちを呼び寄せることが可能かもしれません」
さらに「ただし、これは春先に女王蜂が巣立ちして新居を定めるまでの時期に可能なことで、任意の時期に人の手によって起こすのはほぼ無理だと思います。また、ミツバチに限らず、蜂の仲間は巣を襲われない限り、あるいは巣を襲われたと思われない限り、外敵を積極的に襲うことはありません。仮に襲ったとしても、敵が巣から離れてしまえば深追いされることはありません」「特にミツバチの仲間は毒針にかえしがついており、一度刺すと敵の体内に針が引っかかって残ることになります。針を失った蜂はすぐに死にます。そのため、ミツバチが闘うのは本当に切羽詰まった一撃必殺を狙った状況であり、おそらく積極的に人を襲うことはない(やたら闘いたくはない)と思います」という。
呪術医がどういう方法でミツバチを操ったか不思議だが、ミツバチたちにとっては捨て身の行為だったということだろう。「呪術」にミツバチたちの命が「生贄(いけにえ)」にされてしまった、ということだろうか。