近年、世界に名を刻む日本の監督が注目されています。最近であればヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞した『スパイの妻』の黒沢清監督、アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督、そしてカンヌ国際映画祭最高賞のパルム・ドールに輝いた『万引き家族』や、同映画祭で今年、最優秀男優賞(ソン・ガンホ)とエキュメニカル賞(公式の審査とは別のキリスト教関係者が選出)を『ベイビー・ブローカー』で受賞した是枝裕和監督の名前が挙がります。彼ら以外にも名匠・黒澤明監督や今村昌平監督は海外映画賞の常連。世界の映画賞で知られれば当然、作品は海外のマーケットに影響を及ぼし、世界に名を知られることで本国以外でも監督をするチャンスが訪れます。
まさに6月24日公開の新作『ベイビー・ブローカー』はその象徴であり、是枝監督が『空気人形』でキャスティングした韓国女優、ぺ・ドゥナと、海外の映画祭に顔を出した際に出会ったキャストと共に韓国資本で作った韓国映画なのです。
物語は、「赤ちゃんポスト」に預けられた幼子を売る「ベイビー・ブローカー」の仕事をする2人の男が、赤ちゃんを取り戻しにきた若き母親や、養護施設の子どもと共に、子どもを育ててくれる裕福な養父母探しの旅に出るというロードムービー。
主演のブローカー役には『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞作品賞、監督賞を含む4部門に輝いたことで世界に名を轟かせた名優ソン・ガンホと、日本でもファンミーティングを行う人気俳優、カン・ドンウォンがコンビを組み、新たな親探しをする若き母親役を、IUとして歌手活動をし“国民の妹”と言われるほどの人気アーティストのイ・ジウンが演じています。一説ではぺ・ドゥナの推薦でカン・ドンウォンの出演が決まったとも言われていますが、ドンウォンの出演作『MASTER/マスター』で2017年に来日を果たした際、「いつか是枝裕和監督や中島哲也監督の作品に出てみたい」と発言しており、その舞台挨拶に是枝監督が観客として来ていたことを考えると、その時にはほぼ出演が決定していたのかもしれません。しかも撮影監督は『パラサイト 半地下の家族』のホン・ギョンピョ、音楽は「イカゲーム」のチョン・ジェイルという韓国の一流陣が揃った『ベイビー・ブローカー』。
6年の歳月をかけてオリジナル脚本を完成させ、編集も担った是枝裕和監督が生み出した韓国映画は、感情表現の豊かな韓国の俳優陣の魅力を活かした笑いと涙腺が緩まる脚本で、登場人物全員が成長する希望の物語へと発展。今まではっきりと答えを描かずに観客へラストを解読させる作風が多かった是枝監督が、希望のカタチを描いたことも日本以外のスタッフと作品を作ったことでの変化なのかもしれません。
そう考えると、日本の観客、日本の若者が求めるものに執着せず、世界共通の問題に目を向ける映画作りをすることで結果的に世界のマーケットに乗る作品が誕生するならば、多少、リスクがあろうとも年月をかけてリサーチし、才能溢れる人々との出会いを形にすることが上質な映画作りになるのではないでしょうか。