『ハケンアニメ!』吉岡里帆の情熱あふれる台詞が光る 相手の心を開き、ともに力を振り絞るには

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「ハケンアニメ」に出演した(左から)柄本佑、吉岡里帆、中村倫也、尾野真千子=(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
「ハケンアニメ」に出演した(左から)柄本佑、吉岡里帆、中村倫也、尾野真千子=(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

  『仁義なき戦い』『孤狼の血』など男達の任侠映画を得意とする東映に変化が生まれ始めました。確かに五社英雄監督による『吉原炎上』や『鬼龍院花子の生涯』、『極道の妻たち』も男社会の中でもがきながら逞しく生きる女性主人公の作品も製作されています。けれど現代に置き換えた時、何を描けばスマートに伝わるのか?それが男性と対等に働く状況下での女性達の苦悩に目を向けた映画が現在公開中の『ハケンアニメ!』です。

  原作は直木賞&本屋大賞受賞作家の辻村深月のアニメ業界での仕事を描いた小説であり、2019年に舞台にもなり、話題を呼びました。もちろん緻密な取材により生み出された“感動を生み出す仕事をする人々の人間ドラマ”であり、主人公のアニメ監督だけでなく、彼ら彼女らを支える様々な分野の職人を丁寧に描いたことも多くの働く人々から絶大なる指示を集めている理由です。他にも「人生には、大事なものを失っても、何かを成し遂げないといけない時があると思うんです」と仕事への情熱を呟く吉岡里帆扮するアニメ監督の言葉など、情熱を滾らせる台詞が詰まっていることも映画の満足度を上げています。

  ただ、冒頭に書いた「女性の苦悩」という部分をリアルに描いた作品が大手配給会社の東映で作られたというのも実は興味深い点なのです。主人公の斎藤瞳監督は、男性監督が多いアニメ業界(映画業界も)で若くしてテレビアニメデビューを果たします。彼女のライバルは中村倫也演じるカリスマイケメン監督・王子千晴。それぞれのアニメーションが同時刻に放送されることを記念して行われた対談による製作発表のイベントのシーンでは、SNSの反響が映し出され、男女問わず王子監督を支持する歓喜の文字が映し出されます。さらに苦戦するアニメの視聴率から仲間であるはずのプロデューサーが口にする「最初から反対してたんすよ。新人の、しかも、女の監督なんて」という言葉。そんな心ない言葉を小耳に挟んでしまった主人公の苦悩と努力と情熱のサクセスストーリーは、フィクションというよりはリアルに近いのかもしれません。

  同じ志を持つ者同士なのに、偏見から同じ方向を見ることの大変さを描いた本作の最大の魅力は、どうやって相手の心を開き、共に同じ目的の為に最大限の力を振り絞ることが出来るのか、ということでした。そこには性別や見た目、年齢で相手を軽視せずに、互いにリスペクトするという初歩的なことの他に、アニメ愛と映画愛を持つ長編映画2本目の吉野耕平監督の静かなるパッションが、感動を生み出すエッセンスとして作品に詰まっていました。個人的にも応援している本作、監督の男女比も問題視されている大手日本映画界で、この映画を通してジェンダーの偏りが少しでも減ることを願っています。

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