デビュー40周年を迎えた漫画家・桂正和(59)がこのほど、美少女を描くことのこだわりを語った。「ウイングマン」(1983~85)、「電影少女」(1989~92)、「I”s(アイズ)」(1997~2000)、「ZETMAN」(2002~14)の代表作を分岐点に挙げながら「女の子は難しい。世間は女の子を描くのが得意と思っているかもしれませんが、むしろ苦手なのかも」と振り返った。
「ウイングマン」は「週刊少年ジャンプ」での連載デビュー作。アニメ化もされた。異世界人のアオイに、主人公・広野健太のガールフレンド・小川美紅も加わったウイングガールズが人気を集め、ラブコメ、SF、ヒーロー、美少女それぞれのテーマが存在感を発揮する出世作となった。
「新人の頃、女の子を描く気はゼロ。当時の担当から女の子をいっぱい出せ、と言われ、一生懸命に描きました。多分それは、他誌でラブコメがはやっていたから、それに対抗するコマに僕を使おうとしたのでしょう。お前の女は全然色っぽくない、と叱られ、どうにかしなくてはと思い、もっとエッチにすればいいのかと考え、ウイングマンからそういった方向になりましたね」
「ウイングマン」で確立された〝女性キャラが魅力的な桂正和〟のイメージをそのままに、「電影少女」ではボーイッシュなヒロイン天野あい、早川もえみ、山口夏美らが活躍。「アイズ」では葦月伊織、秋葉いつき、磯崎泉が躍動。「ZETMAN」では趣が少し変わり、ジンとコウガによるダークファンタジー色が濃くなった。
「『ウイングマン』は女の子全員が違う輪郭と、違う目鼻立ちになるように目指して、『電影少女』はできるだけ、実際の人間に近い顔にして、それでかわいくするにはどうすればいいのかを考えました。『アイズ』は肩の力を抜いて、漫画っぽいポップな絵。単行本のカバーでリアル風に描いたのはお遊びで、伊織には見えないものでも平気で描きましたが、読者が写実的な伊織を受け入れてくれたのは不思議でしたね。『ZETMAN』はトーンで臨場感を出そうとした『電影少女』とは違い、トーンを使わず立体感を出したいという変化がありました。(キャラクターデザインしたアニメ)『TIGER & BUNNY』は男ばっかりが出るので楽しかった。『ZETMAN』は特にそうで、じいさんやおっさんしか出てこないので非常に楽だったなあ」
その中でも「週刊少年ジャンプでミニスカートとニーソックスを制服にしたのはたぶん僕が初めて。王道の恋愛ものを描こうと思って、万人に受ける女の子を考えました。計算して、数学的」と話す伊織には、とりわけ苦しんだ記憶がある。
「どの時代でもかわいさの正解が見えなくて苦労しましたが、ファンの期待を裏切るわけにはいかない。髪のベタの入れ方から全部に気を使いました。特に伊織を描くのは命を削っていましたね。神経をすり減らし、ペン入れの時は〝うわ、伊織が出るページが来た〟と憂鬱になり、気合を入れ直して描きました。女の子の体に関して言えば、『ウイングマン』から一貫して時間がかかるし面倒くさいです」
女の子のかわいさの正解は見えてきたのだろうか。「それが分かったらもっと楽になりますよ。何でしょうね…」としばらく考え込み「まるみじゅないですか。あまり痩せすぎていると、女の子らしさを感じないので。柔らかさ、まるみ、かなあ」と続けた。最も神経をすり減らすのは顔だといい「安定しなくて、全く納得がいく顔を描けないんです。女の子は難しい、得意ではないとも思っています。世間は女の子を描くのが得意と自分のことを思っているかもしれませんが、むしろ苦手なのかも。とにかく一生懸命に描いていますよ」と、一瞬顔をゆがませて、作画の苦労を振り返った。
新しく魅力的な美少女を創造する野心はある。「僕は『電影少女』の時から常々言っていますが、漫画の女の子よりリアルな女の子の方がかわいく、素敵だと思っています。だから鼻と口を大きくして、かわいく描けないか、という思いがあります。鼻の穴もしっかり描いて、でも劇画には見えないように。劇画だと写実的な絵でも成立しますが、チャームな感じには絶対になりませんから。それで喜怒哀楽を描けたら、うれしいなという気持ちはあります。野望ではありますが、半分以上無理だろうなとも思っています」と苦笑。男女の骨格、小鼻や小じわまで描く写実的な漫画でも、魅力的なキャラクターはいるが「それでは決して〝かわいい〟にはならない。萌えに近い、かわいいにどこまで寄れるかという野望があります。僕はリアルな人の鼻の大きさ、唇の立体感をかわいいと思ったりしますから。これは永遠に解けないテーマでしょうね。女の子に関しては、僕は絶対に到達しない理想を持っています」と語った。
「ウイングマン」「電影少女」「ZETMAN」の続編に意欲を見せながら、新作への思いもある。新作で描きたいヒロイン像については「キャラクター、性格付けですね。この子すごく面白い、こんな子ほかの漫画で見たことない、というのが描ければ最高です。もう絵面じゃない。しゃべること、考えること、行動…漫画ってそういうものなんです。記号としての絵はありますが、結局キャラがどう行動するか。正統派ヒロインは伊織で、ボーイッシュで儚げなヒロインであいを描いた。今まで誰も見たことがない、おもしろい女の子を描きたいですね」。女の子、美少女を突き詰めてきた作家だからこそ、その言葉には重みがあった。
◆池袋で画業40周年記念展覧会が開催中
作家生活40年の漫画原画をはじめ、漫画以外のイラスト、⾐装デザインなど、漫画の枠には収まらない桂正和の世界が展開される「40th Anniversary 桂正和 ~キャラクターデザインの世界展~」が、4月27日から5月8日まで東京・池袋のサンシャインシティ⽂化会館ビル3階展⽰ホールCで開催中だ。桂は展覧会にあたり、ウイングマンとあおいのイラストを描き下ろした。「昔よりうまく描けているんじゃないですか。わざと僕の今風に描きました。昔のアオイのように描くことはできましたが、つまんないかなと。輪郭から全てが違う。髪もサラサラのストレートになっています。だいぶ違いますが、今この二人を描いたらこうなるな、と思って描きました」と、こちらは手応えを隠さなかった。