東京国際映画祭で「宇宙戦艦ヤマト 劇場版 4Kリマスター」(舛田利雄監督)の上映が4日、東京・丸の内ピカデリーで行われ、舞台挨拶に森雪役の声優・麻上洋子(72)が登壇。「ヤマト」に関連する思い出を語った。
現在は一龍斎春水(いちりゅうさい・はるみ)として講談師の活動も行う麻上。学生時代からアニメに親しみ、「声優に憧れて声優になった最初の世代」とされている。
「私は小さい時からアニメが大好きで『アトム』『ムーミン』を見ていました。そして(アトム役の)清水マリさんに会いたかった。同じ仕事をすれば会えると思いました」
高校卒業後、黒沢良さんが創設した声優養成所の一期生となった。卒業後はアニメ「ゼロテスター」リサ役に抜擢された。
「その時、ゼロテスターとは別のスタジオから出てきたのが清水マリさんでした。それが50年前。今年の夏に、先輩たちとワインを飲んで美味しいものを食べるという会を、森功至さん、野村道子さん、ささきいさおさん、上田みゆきさんと集まったとき、清水マリさんが来てくださいました。それがなんと50年ぶりでした。50年ぶりに憧れの清水マリさんに会ってですね、私は何をしたと思いますか。携帯を出して、マリさんに『これにアトムの声でよろしくね』って。映像つきで撮りました」
「ゼロテスター」からほどなく、「ヤマト」で森雪役に抜擢される。東京・渋谷の青山学院大の近くのスタジオで、オーディションを受けた。森雪のイラスト、セリフをもとに演じて合格した。
「それは嬉しかったです。私は声優になってアニメのキャラクターの声を、主役をやりたいと思っていました。あの当時は若い声優がいなくて、声優の人たちはお芝居をやっていって、お芝居の技術を使ってお仕事をしている。アニメを好きな人たちではなかったという印象でした」
古代進役の富山敬さん、島大介役の仲村秀生さん、佐渡酒造役の永井一郎さん、真田志郎役の青野武さんら先輩に囲まれたアフレコ現場だった。
「私よりはるか年上の方ばかりで、もう本当に緊張のスタジオでした。後に、永井一郎さんに言われたことがあります。『洋子はいつも座ることもできず、壁にへばりついてたよね。マイクの前に行って、セリフを言ったら座ればいいのに。なんかビクビクして壁にへばりついて、じっと先輩を見てたよね』って。座って椅子の音がキュッと鳴るのも申し訳なくて、音が出ないように自分のことを消していました」
森雪を演じる上で意識したことがあった。
「私と同じ世代の声優がいなかったので、私は演じない方がいいと思いました。今の私が感じる思いを乗せれば、今の声でいいと思いました。その時に演出家からそのままでいい、つくらない方がいい、と言ってくださり、勇気を持って、そのままで通しました」
近年になって作品を見直すと、当時とは大きく異なる認識を持ったという。
「私の頭の中では『古代くん』しか言っていないと思っていたんです。『古代くん』のセリフしかなかったのは、私がきっと下手だからだろうという記憶でした。最近、4Kになったりして上映していただいて、こんなに喋っていたのってすごく思います。『古代くんが死んじゃう』ってあんなにそっと言っていたのかな。もっと叫んでいなかったのかな?真田さんを止めようとしていなかったのかな?自分の声にびっくりしました」
古代進役の富山さんの印象を質問されると、次のように語った。
「敬さんは本当に優しかったですね。私が座れないから、敬さんはいつも『洋子、ここだよ。空いているから、ここに座りなさい』という感じで、いつも私の座る場所を与えてくださいましたね」
「ヤマト」は74年のテレビシリーズ終了後に人気が高まり、77年の劇場版は社会現象となるブームを引き起こした。ブームの高まりとともにファンレターが殺到したという。
「お手紙をいっぱいいただいて、とても嬉しかった。なるべくお返事を書かなきゃと思っていました。50年が経って、そういう方たちが私の講談の高座に来てくださるんですが、その時に『お手紙を出してお返事をいただきました』って言ってくださるんですよ。私は何と書いたんだろうという不安と、ちゃんと私やってたんだっていう自分を褒める思いでいろいろ複雑ですが、本当に応援していただいてありがたかった」
「ヤマト」がなぜこれほど人気になったのか、と質問されると、アニメ好きらしい感想を口にした。
「私はアニメが大好きで、声優になりました。でも、それまでの方たちは声優が好きだからやっていったんじゃないんじゃないかなって思います。作っている方たちも虫プロから始まって、アニメが大好きでやっているけれども、虫プロ以外のところはおもちゃを売るためのドラマでしかなかったかもしれない。でも、『ヤマト』とか『ゼロテスター』の方たちは虫プロを卒業して、自分たちの好きなアニメを作ろうというパワーがものすごくあったと思います」
森雪役の肩書は誇りでもあり、重圧でもあっただろう。そのような質問に麻上は「本当に好きでやっているだけで、人気とかは意識しませんでした」と語りつつ、自身が演じた「ゼロテスター」のリサ、「伝説巨神イデオン」のハルル・アジバを挙げて「ファンレターは雪ちゃんに対して書いてくれるんです。『私イコール森雪』というイメージでお手紙をくださって、時々その違いに迷うこともありました。だから私は私よっていう時代もあったと思います」と振り返った。
「宇宙戦艦ヤマト」森雪に対して、現在の思い入れを問われると、麻上はニッコリとうなずいた。
「大きな存在です。私は恵まれていて、すごくいい作品に出会わせていただいた。大勢の個性ある先輩がいました。私はアニメが好きで、先輩たちはそんなにアニメが好きじゃなかった、と言いましたけれども、芝居が好きで個性があって、そのお芝居の濃さが当時のアニメを深いものにしているんだと、この頃深く感じています。ですから、そのスタジオの中にいられたことはとても大きいですね」
富山さん、仲村さん、永井さん、青野さんと共演者の多くが鬼籍に入った。それでも麻上は明るく前を向く。現在も続くSNS等を通したファンからのエールを「ずっと繋がってるんだっていう気持ちにさせていただいて、もうちょっと生きていようと思いました」と述べ、伊武雅刀、神谷明、緒方賢一ら存命の共演者の名を挙げて「みんな頑張っていますし」と誓いを新たにした。
「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督が「ヤマト」新作制作を10月に発表したことが、大きな注目を集めている。そんな状況を踏まえてか「新しい『ヤマト』の何かで声を出せたらうれしい。だからこれからも『ヤマト』を応援する気持ちを持ち続けて欲しいです」と来場者に呼びかけ、舞台挨拶を締めくくった。