「キャプテン」ちばあきお長男 早世した父の実像に迫る著書「皆さんに父は愛されていた」

山本 鋼平 山本 鋼平
著書を手にする千葉一郎氏
著書を手にする千葉一郎氏

 名作野球漫画「キャプテン」「プレイボール」で知られ、1984年に41歳で早世した漫画家ちばあきおの長男、千葉一郎氏(46)が今年3月、「ちばあきおを憶えていますか 昭和と漫画と千葉家の物語」(集英社)を発表し、亡き父の実像に迫った。父の兄弟である漫画家ちばてつや(代表作「あしたのジョー」「あした天気になあれ」など)、元ちばてつやプロダクションマネージャーの千葉研作、漫画原作者の七三太朗(「4P田中くん」「風光る」「イレブン」など)への取材を通して、千葉家の4兄弟、そして昭和の漫画界を横断した。

 約3年間の取材では伯父らに加え、元アシスタントの高橋広(「イレブン」など)、父と親交が深かった武論尊(「ドーベルマン刑事」「北斗の拳」など)、江口寿史(「すすめ!!パイレーツ」「ストップ!!ひばりくん!」など)、「キャプテン」主人公・谷口タカオの氏名モデルとなった元担当編集・谷口忠男氏、母の高校時代の同級生で両親の交際のきっかけをつくった里中満智子(「アリエスの乙女たち」「天上の虹」など)ら多くの関係者の元に通った。

 「父が他界した時、自分はまだ小さく、忙しかった父の姿はぼんやりしていました。伯父達には以前から、優しくて繊細なところがあった、とは聞いていましたが、改めてこの機会でしっかり取材した時、父の姿は聞いていた通りでした。皆さんに父は愛されていたのだと実感し、うれしかったですし、安心しました」

 太平洋戦争の直後、満州から命からがら帰国した千葉家。幼い頃の父は病弱で心配されていたこと、祖母のたくましさ、祖父の自由人気質、父を含めた4兄弟みなが漫画に携わる特異性、多くの有名漫画家との交流が描かれた。本には記さなかったが、有名漫画家と結婚したちばあきおの女性スタッフも珍しくなかったという。忙しく、酒好きで几帳面な、スポーツ万能だった思い出の父とは異なる一面を知る度、前向きに受け止める自分自身に喜びを感じた。

千葉氏は2016年、父の作品を扱うちばあきおプロダクションの代表を母から継いだ。「父が他界した年齢を自分が超えたことが大きかったですね。それまでも父はどういう人間だったのか気にはなっていましたが、実際に何かしようという気持ちにはなりませんでした。年齢を重ねて、少し踏み越んで考えられるようになったことに加え、伯父達や今回取材させていただいた先生方が高齢になってきており、この機会を逃すと話を聞くことが難しくなるのでは、と思いました。父を含めて、このような作家がいたということも知ってもらいたかった」。藤子不二雄や赤塚不二夫らのトキワ荘、つげ義春や水木しげるら貸本を軸にする漫画史とは異なる、新たな視点をつくる意義も見いだした。

 1984年9月、漫画界から惜しまれつつ急逝した父。「キャプテン」「プレイボール」の連載終了後、約3年の休養期間の様子、82年に「ふしぎトーボくん」で復活した際の明るい描写、遺作となった「チャンプ」連載中に酒量が増え、苦悩する場面が増える緊迫感は、息子だからこその重みがある。

 「伯父も含めて取材した先生方は当初、どこまで話していいのか、と困惑することがありました。それでも私が伺うと、あの子どもが…と驚くとともに、息子が来るなら、と話してくれました。肩の荷が下りたというか、話せて良かったという反応をいただきました」

 ちばあきおプロダクション代表として、父の作品に接し続ける千葉氏。「母は作品を守る意識が強かったのですが、僕は新しいものに触れてもらいながら作品を守る方法もあるのでは、と考えています」。コージィ城倉がちばあきおの絵柄を忠実になぞりながら、集英社「グランドジャンプ」で連載中の「キャプテン」の続編「キャプテン2」には思い入れが強い。「絵を見せてもらった時、これでいいんですか、と驚いて聞いてしまいました。コージィ先生には、父や伯父が作品に向き合う姿勢に対し、配慮していただきました」と感謝。その上で「最近、ちばあきおはちばてつやの弟だと、知らない人と接する機会が増えてきました。父の作品を、若い方にも手にしてもらえる機会を増やしたい。頑張っていきたいですね」と表情を引き締めた。

 今年は「キャプテン」連載開始から50年の節目。執筆を通して、新しい夢もできた。「こんな波瀾万丈で、全員が漫画に関わるドラマのような兄弟は他にないと思います」と千葉家の特異性を実感。「4兄弟のミュージアムや、ドラマができたら面白いと思っているんです」。父の在りし日の姿を思い出させる、人懐っこい笑顔でそう語った。

 ◆展覧会、上映 連載50周年を記念して、都内の集英社ギャラリー(集英社神保町3丁目ビル1階)では「キャプテン」の特別展示が4月30日まで実施中。また、千葉・柏市のキネマ旬報シアターでは、当初の予定から1週間延長し、5月6日まで「キャプテン劇場版」(1981年、監督:出崎哲)を上映する。

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