女子スラックス制服は「防寒用」にも活用 『東京女子高制服図鑑』の著者が解説、今年初めて描写

北村 泰介 北村 泰介
登場時にはニュースになった女子用スラックス制服。ここ3年ほど需要は増えている。すっきりとしたシルエットが特徴だ(2019年撮影)
登場時にはニュースになった女子用スラックス制服。ここ3年ほど需要は増えている。すっきりとしたシルエットが特徴だ(2019年撮影)

 「LGBTQ」に配慮した「ジェンダーレス制服」が近年、注目されている。そこに含まれる女子生徒のパンツスタイル(スラックス)は、その趣旨だけでなく、便宜的なニーズも含めて、選択肢のある学校ではこの3年間で着用者が増えているという。日本のバブル景気直前となる1985年に刊行され、その後の制服文化を考える上でエポックメーキング的な書籍となった「東京女子高制服図鑑」の著者でイラストレーター、制服研究者の森伸之氏に見解を聞いた。

 森氏は学生時代に現代芸術家・赤瀬川原平氏に師事し、「考現学」の視点から街中の制服を路上観察した集大成として「東京女子高制服図鑑」(弓立社)を世に出した。都内の私立高校151校を対象に、各校別に女子制服の特徴や差異を的確に描きつつ、その制服を着る女子生徒の表情や着こなしをポップな筆致でイラスト化した斬新な手法でベストセラーとなった。

 同書はシリーズ化され、94年度まで毎年改訂版を刊行するロングセラーに。単なるカタログではなく、そのイラストからは街の記憶や時代背景も感じることができる。また、制服デザインが女子生徒にとって志望校を決める要素の一つとなり、学校側も意識してデザインを刷新するといった影響も残した。

 平成の終わりとなる2019年4月に刊行された「平成女子高制服クロニクル」(河出書房新社)」は現時点で、森氏の学校制服本としては最新作となる。首都圏に加え、名古屋、京阪神、函館など各都市で見かけた制服のデザインと着こなしを記録し、テレビの学園ドラマや映画に登場した制服も分析した。同氏は前書きで「平成日本における女子高生の制服の変遷」を説明。その要旨を以下にまとめた。

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 1990年代、ミニスカートにルーズソックスとローファー、スクールバッグの肩がけに象徴される「コギャル」ファッションが東京・渋谷から全国に波及したが、2000年代になるとルーズソックスは廃れて紺のハイソックスが主流に。10年代前半には極端なミニスカートが時代遅れとなり、同年代後半には私立高を中心にスカート丈が明らかに長くなる。制服にスニーカーの組み合わせが当たり前となり、バッグ類もリュックやトート、ショルダーなど多様化。ブレザーの下にパーカーを着るなど、通学スタイルに私服のアイテムが流入している。90年代中期をピークとする「女子高生ブーム」も遠い昔となり、記号化された「女子高生」のドレスコードに合わせるよりも、「肩の力を抜いて自分の好きな通学スタイルを楽しむ」という傾向が見られる。

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 そして、2020年代、女子の制服にスラックスという選択肢が、まだ一部とはいえ、定着してきた。ジェンダーレスという概念にこだわらず、その選択理由には、防寒や動きやすさといった利便性、ファッションとしての好み、スカートに対する性的視線の回避といったさまざまな要素が含まれる。まさに「自分の好きなスタイルを選ぶスタイル」に合致する。

 森氏は今年3月、自身のツイッター(@gooitch)に「衛星放送の魅力を訴求する」ショートムービーの動画を添付。3人の女子高生の内の1人がスラックス姿で疾走する映像を踏まえ、「CMに登場する女子高生もスラックスを履く時代がいよいよ来ましたか」と投稿した。約40年間に渡る「制服の描き手」は、こうした動きを意識し、既にフィールドワークを進めている。

 森氏は、よろず~ニュースの取材に対して「女子中高生へのインタビューでは『冬の寒い日にスラックスを履けるのは便利』という声は実際にありました。変わったところでは『学校帰りにクラシックバレエのお稽古がある日にはスラックスを履く』という生徒さんも。あらかじめスラックスの下にバレエタイツなどのレッスン着を着て行けるので便利とのことです」と指摘した。

 実際に、森氏は「ここ数年、都内のある私立女子校の学校案内パンフレットに制服紹介のイラストを描いていますが、今年は冬服のオプション品として初めてスラックス姿の女子高生のイラストを描きました。3年ほど前に生徒の要望で追加されたというスラックスは、ストレートなシルエットで中性的なデザインです」と明かす。

 女子生徒の制服といえばスカートが大前提だった時代は終わりつつある。今後のイラストに影響は出てくるのだろうか。森氏は「80年代から90年代にかけて刊行していた『東京女子高制服図鑑』ではスラックスを描いた例はありませんでした。今後、もし、同様の企画があるとすれば、スラックスも描くことになると思います」と明言した。

 「令和の制服」はどのように変わっていくのか。森氏はその動きを、制服観察というライフワークの一断面として注視している。

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