海中で新種のRNAウイルスが発見されたという。さまざまな遺伝子治療や遺伝子研究に利用されていることに加え、生命の進化の謎が明らかになる可能性もあるという。女優でジャーナリストの深月ユリア氏が専門誌に発表された学者の論文などを紹介し、研究者にも見解を聞いた。
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【新種のRNAウイルス5504種発見】
今年4月7日付の科学誌「Science」 によると、 米オハイオ州立大学の研究により、海の遺伝物質から新たに5504種の未知のRNAウイルスが特定されたという。
RNAウイルスは、遺伝子情報の伝達やタンパク質の合成を行う。感染すると新型コロナウイルスやインフルエンザなど、さまざまな病気の動因にもなるが、RNAウイルス全てが害を及ぼすものではない。特にRNAウイルスの中でもDNAを逆転写する機能を持つレトロウイルスは「天然のナノマシン」として、さまざまな遺伝子治療や遺伝子研究に利用されている。
【ウイルスと生命の進化】
それだけでなく、レトロウイルスは生命の進化と密接な関わりがある。
東京大学大学院農学生命科学研究科の今川和彦教授と京都大学ウイルス研究室の宮沢孝幸博士らが「 Genes to Cells」誌に発表した論文によると、「哺乳類のゲノムには、過去に感染した内在性レトロウイルス遺伝子の断片が多く存在している(全ゲノムの8%)」「それらの内在性レトロウイルス遺伝子は機能性の高いウイルス遺伝子と順次置き換わり、哺乳類胎盤獲得に働いてきた」「現在の胎盤も、新しいウイルス遺伝子の獲得によって、さらに変わりうる可能性も持っている」「ウイルス遺伝子の起源が同じでなく、各動物種がそれぞれ独自にウイルス遺伝子を獲得し進化してきた」という。
理化学研究所の元研究員X氏は筆者の取材に対して「ウイルスの感染が哺乳類の進化と大きく関わっています。赤ちゃんの細胞がお母さんの身体の中に入ったら、普通はウイルスと同じく、異物と見なされて排除されるけれど、哺乳類は『胎盤』を獲得して、赤ちゃんをお母さんのお腹の中で育てることができるようになりました。これができるのは、哺乳類だけなんですよ。生物はウイルスと共に進化してきました」と主張する。
【進化のミッシングリンクが解明!?】
さて、今回の発見だが、研究グループが海洋科学調査プロジェクト「Tara Oceans」で収集されたプランクトンのRNA配列を調査したところ、RNAウイルスのタンパク質情報を持つ遺伝子が4万4000も特定されたという。今回の発見により、RNAウイルスの分類の一貫である「門」は、従来の5門から10門に倍増した。
新たに見つかった 「タラビリコタ(Taraviricota)」と「アルクティビリコタ(Arctiviricota)」の2門は、温帯海域か熱帯海域の広い海に生息するという。さらに、 研究チームは、AI技術により、発見されたRNAウイルスたちが進化の過程において共通の祖先がないか調査したところ、タラビリコタは複製方法が分岐したとされる2系統のRNAウイルスの「ミッシングリンク」を解明する可能性があるそうだ。
今回の研究は「地球初期の生命の進化の謎の鍵を握る可能性がある」という。我々人類の進化の謎も明らかになる日は近いのかもしれない。