銀座のカプセルタワービル解体 数十個は国内外に拡散、再生して展示や宿泊用に 元住人が思い明かす

北村 泰介 北村 泰介
4月12日から解体工事が始まる「中銀カプセルタワービル」。隣接するビルは既に解体され、半世紀、見られなかった全体像が現われた=東京・銀座
4月12日から解体工事が始まる「中銀カプセルタワービル」。隣接するビルは既に解体され、半世紀、見られなかった全体像が現われた=東京・銀座

 SF映画を連想させる東京・銀座8丁目の名物ビルが地上から消える。建築家・黒川紀章氏の設計で、1972年に建てられた鉄筋の集合住宅「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」の解体工事が12日、始まる。誕生から50年の節目となった4月、その歴史に幕を下ろすことになったが、同ビルへの愛着を持ち、その歴史的価値を認識する元住人たちの歩みは解体と共に第2のスタートを切る。

 解体前の週末、建物を取り囲んだ防護フェンス前や近くの陸橋から、カメラやスマホを手にカプセルタワーを撮影する、一部で「撮りカプ」と称される人たちの姿が多く見られた。高さ約42メートルで地上13階、地下1階。丸窓のあるサイコロ状カプセルが140個、2本のシャフトに取り付けられ、カプセル内は床面積約10平方メートルの部屋だ。工事予定期間は12月29日まで。約8か月後には銀座の地から完全に姿を消す。

 同ビルの保存と再生を模索してきた「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」の前田達之代表は昨春、よろずニュースの取材に対して「世界初のカプセル型住宅で、カプセルを交換することができるメタボリズム(新陳代謝)思想の発想が今でも斬新。また、この建物が引き寄せる個性の強い住人が面白い」と魅力を語っていた。

 元住人である前田代表がオーナーとして所有した部屋の住人だった1人が、アニメや特撮などのレコードを回す「コスプレDJ」にして2児の母である「声(こえ)」さんだ。今年1月末に退出した声さんだが、同プロジェクトのメンバーと共に借りた隣接するマンションの部屋で、これまで通り、配信DJを工事の様子を実況しながら発信していくという。

 声さんは「近隣に配慮した防音や防じんのため、ビル全体はパネルで囲まれ、工事中の建物がどうなっているかは分からなくなります。その工事パネルが外されたときは、建物はなくなっていると思うと寂しいですが、その過程を見届けたい」と語る。さらに、「コロナ禍の前には、海外の人たちが建物の写真を撮りに来られるなど関心が高く、建物の価値を分かってくださっていると感じた。コロナがなくて、東京五輪が通常の形で開催されていれば、国際的な注目度がさらに高まり、解体ではなく、『文化遺産』として保存する道を探る機運も高まっていたのではないかと思ったりもします」と残念がった。

 とはいえ、解体工事は始まった。後戻りはできない。当初、カプセルは25年に1度交換される予定で、同じ場所での存続が視野に入れられていた。そのプランは実現しなかったが、別の道としては、バラされたカプセルを廃棄するのではなく、アートとして国内外の美術館や公園などに展示品として引き取られることにある。実際、埼玉県の北浦和公園には、見学用のモデルルームとして建物外に置かれていたカプセル一棟が展示されている。そのような形で、国内外の各地でカプセルの引取先が今後、模索されていくことになる。

 前田代表は昨春の時点で「取り外した古いカプセルが胞子のように各地に散らばる…面白いじゃないですか。できれば教育機関とか美術館に置かれてメタボリズムを継承できれば。また、いくつかは宿泊できるカプセル・ヴィレッジであるとか。ちなみに、黒川さんは79年に世界で初めてのカプセルホテルを作っています」と語っていた。

 それから1年。現時点でのビジョンを聞いた。前田代表は「建物は解体されますが数十カプセルはタワーから取り外され、黒川紀章建築都市設計事務所と一緒に50年前の仕様に再生します。再生されたカプセルは国内外の美術館での展示や、『泊まれるカプセル』として運用されます。これからもカプセルファンを増やす活動を続けていきたいと思います」と新たな可能性を探る。

 昨年4月、斬新なデザインのZINE(個人制作の冊子)「中銀カプセルタワービルデイズ(1)」(税別1000円)を発売した声さんは「2巻目の準備も進めています」と前を向く。同プロジェクトでは400点以上の写真を収録した「中銀カプセルタワービル 最後の記録」(草思社、税込3850円)を今年3月に出版。また、同ビル内に事務所を構えていた映画プロデューサーはドキュメンタリー映像を撮影中だ。

 カプセルが「胞子」のように世界各地に拡散する構想と並行し、ビルと住人たちが築いてきた「記憶」を後世に残そうという動きは既に始まっている。

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