「アソビの大切さ伝えたい」人生のどん底から再起した店主が徳島の住宅街に作った「徳島ゲーセンリバース」

野中 比喩 野中 比喩

徳島県阿南市の住宅街の一角にたたずむ徳島ゲーセンリバース。これまでゲームやゲームセンターに専門的に携わった経験は一度もなかったという店主が立ち上げた、まだ新しいお店だ。リバースは一般的なゲームセンターのように最新ゲームを取り扱っている訳ではない。90年代や2000年代のアーケードレトロゲームがメインのラインナップで、しかもそれらは中古で買い取りしたものを店主自ら修理したものという異色のお店だ。

設立の経緯について代表の佐藤勇斗さんに話を聞いた。

  ◇  ◇

野中比喩(以下「野中」):徳島でゲームセンターをはじめたきっかけについてお聞かせください。

佐藤:元々は東京でビジネス書の編集者をしていたのですが、激務で体を壊し徳島に帰郷したんです。そのあと建設現場で働いたりもしましたが、生まれながらの体の弱さで外勤は厳しく、宅建を取って不動産の仕事や広告など内勤にまわしてもらっていました。それでも一度壊した体は元に戻らず、線維筋痛症や潰瘍性大腸炎にかかり、全身の激痛や麻痺、失明もあって、数年ほぼ寝たきりの生活をしていたんです。

病気といっても原因不明で治療法もないので、ただただ寝ているだけ。横になっていても全身の痛みはありますから、失神するまで何日も眠れないという時期が長く続きました。ただ、奇跡的に見えなくなっていた両目のうち左目だけ視力が戻り、痛みはあるけどどうにか歩けるくらいまでは麻痺も収まってきたんです。当時は寝たきりで死ぬしかないと思っていたので、今の状態は天国のようなものです。こんな幸運に恵まれたのだから世の中にお返ししないとバチが当たります。だけど、外に出て行って働くことは下血もあって難しい。だったら、待っている仕事をしようと。

でも、すでにあるような仕事はおもしろくない。だったらゲーセンだと。地方創生なんて言って行政がお金を出してカフェや図書館みたいなものが作られていますが、ゲーセンやバーは作られないでしょう?常々、地域活性化は綺麗事じゃできないと思っていたので、ゲーセンを選んだんです。まあ、何年も寝たきりで、寂しかったのもあるかもしれませんね。ゲーセンならゲームが好きな人が話し相手になってくれるかもしれないですからね。まったくの未経験でしたが、その時はやれそうだと思ったんです。今はデザイン業とゲーセンの二足のわらじでやっています。

野中:私も身体が弱く寝たきりの時期があったのですが、スッと生きている事に光がさした瞬間があったので共感します。お店はいつから営業開始されたのでしょうか?

佐藤:2020年11月からです。その3ヵ月ほど前に営業許可をもらってプレオープン期間を設けましたが正式開業は11月。ただ土地を買ってますから、そこから建てているところを宣伝・営業したと考えるなら2019年の10月頃からですかね。

野中:レトロゲームは中古のものを購入して修理されているそうですが、ご経験はあったのでしょうか?

佐藤:修理の知識はゼロでした。ゲームセンターには遊びに行くだけで、機械の修理や中身がどうなっているかなどはまったく知りませんでした。修理用の機材を売っていただいた方に数時間説明を受けましたが、基本は自分で調べて直しています。ブラウン管はもう製造されていませんし、ゲーム基板(ソフト)も二度と生産されませんから、当てずっぽうで失敗しながら直すしかないですね。

野中:レトロゲーマーにとってブラウン管問題は深刻ですね。所有されているゲームタイトルはどれ位あるのですか?

佐藤:数えたことはないんですが、所有しているのは100本を軽く超えます。稼働しているゲームは毎週のように変化しますが、20~30タイトルくらい。有名なところですと、「スーパーストリートファイターⅡX」や「真サムライスピリッツ」、珍しいところでしたらパズルゲームの「でろ~んでろでろ」や格闘ゲームの「ニンジャマスターズ」、シューティングゲームの「グレート魔法大作戦」あたりでしょうか。イベントの時にはアシュラバスターなどさらに珍しい作品が並びます。

野中:アーケードと家庭用に移植されたゲームの内容が全然違う時代でしたから、アーケードで遊びたいという人は多いでしょうね!今後の展望についていかがお考えでしょうか?

佐藤:リバースの野望としては、阿南市那賀川町にアソビのまちを作ることにあります。修理工場を作ったり今のお店を拡張していくのはもちろんですが、宿泊温泉施設付きゲーセンを建てるとか、ゲーセン付き特別養護老人ホームを作ってそこに自分がおさまるとか…。冗談のような夢はたくさんあるんですが、まずは捨てられてしまうゲーム機を修理してまた遊んでもらうこと。次にリバースを起点に周辺にアソビのまちをつくることが直近の夢ですね。

野中:ゲーム仲間とストレス発散!理想郷ですね。

佐藤:ゲームセンターで100円を入れて遊ぶことに、無料のものがあふれて育った世代はビックリするかもしれませんね。でも、お金を払うことで豊かになることがあるということもこれからの世代に伝えたいと思っています。手元からお金がなくなるのに豊かな気持ちになる不思議といいますか。そこが世の中のおもしろいところなので、なんでもかんでも自己解決して完結しないことです。

体もロクに動かせない、目も見えない、そんな人間でも、こうして生きているのは人の縁でしょう。ポンコツな私を生かしておくだけの余裕というか、豊かさがあったからこそだと思います。そういった余裕、物質的だけでなく、精神的な豊かさを育むのにアソビは大切な要素だと思います。忙しく窮屈な時代ではありますが、勉強や仕事に近視眼的になるのではなく、人的、物的広がりのあるアソビにも目を向けてもらいたいですね。また、それを伝えることが豊かな時代を知る中高年の使命だとも思いますね。

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人生をかけてアソビの大切さを伝えようとする佐藤さん。今後、徳島ゲーセンリバースを中心にどのような活動を展開してゆくのか目が離せない。

徳島ゲーセンリバース 概要
Twitterアカウント:https://twitter.com/Reversal55
Youtube:https://www.youtube.com/channel/UCoCrCpGw6z5B9D8WWBXTDcQ
HP:https://yps.tokyo/sf2/
住所:徳島県阿南市那賀川町上福井南川渕 134-42
営業時間:月金は 17~24 時、土日は 13~24 時(火水木定休)

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