ゆうちょ銀行で1月17日から、これまで無料だった硬貨の取り扱いやATMでの硬貨預け払いに手数料が新設された。小銭を多く使う店舗などから悲鳴が上がっているが、さい銭や初穂料で多くの硬貨が集まる神社の実情を聞いた。
埼玉県加須(かぞ)市の玉敷神社では、授与所に「当神社では100円玉が多く集まり、取り扱いに苦労しています 御朱印等の初穂料は100円玉をご用意せず遠慮なく1000円札をお使いください お釣り歓迎!」という貼り紙がある。
お守りや御朱印のお代にあたる「初穂料」を納める際に「おつりが出ないことがマナー」という情報が広まり、硬貨でぴったり払う参拝客が多いという。2022年初詣のおみくじ代だけで、100円玉500枚入りのパックが10袋集まった。
おつりとなる硬貨は十分すぎるほどあるといい、同神社の宮内由紀子宮司(61)は「100円玉が集まってしまいうちとしては困っているので、こだわらなくてもいいですよという意図で提示しました。お互いのニーズが合えば」と、異色の「お釣り歓迎!」貼り紙の意図を明かした。
初詣のさい銭ではさらに多くの硬貨が集まり、2021年の初詣シーズンには約3万2000枚が集まった。宮内宮司は「今年はこれからの集計。集計にいたってない」と、大量に集まった硬貨を前にする。ゆうちょ銀行の硬貨取扱に手数料がかかることを知ってか知らずか、今年は特に「家で貯めた小銭をたくさんおさい銭として入れている人が多かった」と振り返った。
以前は玉敷神社を都市銀行の行員が訪れ集計していたが、同銀行の硬貨手数料有料化にともない「手数料がかかることを告知された。手数料をサービスしてくれることは一切ないです」。同神社では中古の硬貨選別機を購入。枚数を計測した上で、多くの小銭が必要なコンビニなどと連携して両替し合っているという。
宮内宮司は、銀行の硬貨取扱手数料化には理解を示しながらも、昨年の初詣シーズンで集まった約3万2000枚の硬貨を銀行に預け入れると3万5000円の手数料がかかると試算する。〝ご縁がありますように〟と投げ入れられる5円玉や、1円玉だけで1万1000枚を超え「手数料を取られると、どれだけの人のおさい銭、お気持ちが引かれてしまうのか。いただいた金額を、そのままの額でお納めしたい」と、独自の両替策の理由を語る。
神社同士では内情をオープンにしない風潮があるといい、他の神社との情報交換もまれ。「大きな神社では、おさい銭の集計を外注化しているところもあると思います」と推測した。
ゆうちょ銀行の硬貨取扱有料化の影響は、神主が常駐していないような小さな神社にとって影響が大きいとする。「総代が集めたおさい銭を、家などの手元に置いて預かっておくのは精神的にしんどい。郵便局に預けて、手数料で目減りしていくのは忍びないのでは」と宮内宮司は察する。
社寺が電子マネー決済など、キャッシュレス化を進めることについては「神社にはそぐわないし、キャッシュレス化の風潮は止めたい」ときっぱり。機器導入など初期費用が小さな神社には負担になることや、手数料がかかることは同じだといい、決済が後払いになることで「お願いをした時点で、神様にお気持ちが届いていない」と思いをめぐらせる。カード会社などに「信教の自由」に関わる寄付行為の個人情報が筒抜けになる、などの問題もあるという。
ツイッターなどで積極的に情報発信する玉敷神社。知名度アップとともに「神社の現状として、こういうことがあるということを知っていただきたかった」と宮内宮司は話す。スマホでピッ!とさい銭を支払う文化が来る時代は「硬貨が流通する限り、すぐには無理」と予測した。