ベルばらを想起 樋口明宏「Margaret–少女マンガ彫刻」 仏像のように魂を宿すために

山本 鋼平 山本 鋼平

 樋口明宏さんの個展「Margaret–少女マンガ彫刻」が、東京・渋谷のMA2 Galleryで開催されている。

 流麗な巻き髪、美しく大きな瞳。「ベルサイユのばら」で知られる漫画家・池田理代子さんの描くキャラクターをほうふつさせる木彫作品が展示されている。「仏像のような存在はもっと自由にその人の好みの容姿、形式でいいのだと私は思う。少女マンガ彫刻はそんな仏像のようなイメージで作られている」。そう開催に際しコメントした樋口さんは1969年生まれ、東京都出身。97年に東京芸術大美術研究科彫刻専攻を修了し、2000年から06年まで独国立シュトゥットゥガルト美術大で学んだ。

 これまで昆虫標本に工芸品のような繊細な模様を描くシリーズや、仏像と特撮ヒーローが一体化したような木彫作品などを手がけてきた。樋口さんは「私は子供の頃大好きだった昆虫やヒーローのオモチャを使った作品を作った。それは無意識に。ここで私は大人の女性が少女の頃に恋い焦れた漫画の中の人物のような彫刻(存在)を作りたいと思っている」と述べた。

 少女マンガ彫刻は2020年から取り組む最新テーマ。少女マンガには「全然詳しくありません」とした上で「私の娘は絵を描くことが好きですが、幼稚園くらいか、ある時から急に少女マンガ風の絵を描き始めました。すごい影響力だと思います」と関心を向けた。

 「男の子が仮面ライダーやウルトラマンなどに夢中になっている時、精神的に成長の早い女の子は複雑な恋愛や問題を抱えて葛藤するということを、少女マンガを通して学んでいたのではないか。好きな男の子は、本当は普通の子供なのに少女マンガの登場人物のような人だと理想化して恋をしていたのではないか。あるいはマンガの登場人物に恋をしていたのではないか。大人の女性は歳を重ねても少女の頃の世界観を持ち続けている人が多いのではないか。少女マンガは熱心に読んだ人の心に大切な世界を作っているのではないか」

 このような意識を作品に投影。「造形的には極端なデフォルメで、独創的で非常に魅力的な表現が完成しており、浮世絵にも通じていて世界に誇れる表現だと思います」と改めてその魅力を述べ、「少女マンガの登場人物は読んだ人の心の中では魂を宿していると私は思います。私はそんな魂を宿したように見える彫刻を作りたかったのです。古い仏像のように。フィギュアではなく彫刻です」と制作の狙いを説明した。

 特に影響を受けたのは池田理代子さんだという。「個人的にとても好みでしたし、彫刻に出来そうなイメージを持ちました。この彫刻作品の構想に宝塚歌劇団のイメージもあったので、池田先生の画風と宝塚のイメージが重なったのかもしれません」。今回の制作に際しては「おにいさまへ...」「オルフェウスの窓」(ともに池田理代子)、「エースを狙え」(山本鈴美香)、「はいからさんが通る」(大和和紀)からの影響を明らかにした。

 始まったばかりの新しい作品テーマ。樋口さんは「特定の先生、キャラクターにならないように当初は心がけていましたが、よりカッコ良く、美しく、より少女マンガ的に仕上げようとするうちにやっぱり似てきてしまいました。その世界にどっぷり浸かっていないからこそできる表現や視点もあると思っています。今後もっと制作の幅は広がるかもしれません」と語った。少女マンガ自体にも関心を強め、読書の幅を広げ、参考にすることなどを考えている。テーマを深化させた新作が生まれることを楽しみに待ちたい。

 個展「Margaret–少女マンガ彫刻」は2月3日まで開催。休館日は日、月、祝日(火は事前アポイント制)。午後1時から午後6時まで(最終日は午後5時まで)。入場無料。

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