有村架純演じる「保護司」が訴えかけるものとは 本当の正義を問う映画「前科者」

伊藤 さとり 伊藤 さとり

 罪を犯した人間を成敗するのが正義なのか?

 今、この問いに対して見直す動きが世界的に巻き起こっている気がします。

 それは現在大ヒット公開中の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でも描かれているように、ネット社会になり言葉で安易に犯罪者を叩くことが出来る現代に向けて、本当の正義とは一体どんな行動を表すのかを人々に考えてもらおうとしているように感じられるからです。

 けれどこのようなエンターテインメントを通した意識改革は日本でもすでに始まっており、西川美和監督の『すばらしき世界』(2021年)では、犯罪者の更生に対して社会は本当に寛容なのか、何が足りないのかをカメラが様々な角度から捉えていました。更にこの映画では、役所広司扮する元受刑者が刑務所から出所した後、保護司夫婦のサポートを受けながら社会復帰を目指す様子が映し出されます。確かに元受刑者が一人で通常の生活をリスタートするのは容易ではないのですが、この保護司という仕事が国家公務員でありながら無償であることにも驚かされます。

 そんな保護司から見た元受刑者と社会問題を描いた一本の映画が1月28日(金)に全国公開されます。それは人気コミックをベースに、一足早くWOWOWで連続オリジナルドラマとして放送され、ドラマとは違う新たな保護観察対象者に焦点を当てた岸善幸監督による映画『前科者』です。

 この物語で保護司・阿川佳代を演じるのは有村架純。なによりも保護司活動を重視するゆえ、融通の利く優しい店長(宇野祥平)が経営するコンビニでバイトをしながら、様々な前科者の社会復帰をサポートしています。映画では森田剛扮する殺人を犯した工藤誠を担当することになった彼女が巻き込まれていく事件の全貌と工藤の過去、そして阿川本人の過去が明らかになっていきます。

 実際に犯罪ルポライターの方にお話を伺うと、受刑者の中には幼少期から貧困に喘いでいたり、ネグレクトにあっていたり、障がいを抱えている人も少なくないと言っていました。そんな彼らの過去に目を向けると全ての元受刑者に対して安易に社会からの断絶を求める声を上げていいのか?更には犯罪の再発を招くことになるかもしれないと考えられます。この保護司という仕事だけでなく、私たちに出来ることは、物語に登場するコンビニの店長の間接的な行動でも多くの人を救う手助けになるかもしれないということ。それは昨年末に発表になった「子ども食堂」が全国的に増加傾向にあるというニュースからも分かるように、家族以外の他者を断絶するのではなく、手を差し伸べる行為が一つの命を救うかもしれないと想像することの大切さに気付かされるのです。

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