「北斗の拳」北斗七星、南斗六星、死兆星を陰陽道の視点から考察 その関連性とは

よろず~ニュース編集部 よろず~ニュース編集部
島崎晋「鎌倉殿と呪術 怨霊と怪異の幕府成立史」の書影
島崎晋「鎌倉殿と呪術 怨霊と怪異の幕府成立史」の書影

 1980年代の大ヒット漫画「北斗の拳」(武論尊原作、原哲夫作画)に登場した天体模様といえば、主人公ケンシロウの胸に刻まれた北斗七星が有名だが、作中には星にまつわる伝説が数多く散りばめられ、陰陽道からの強い影響のもとで成立した密教の星宿法をほうふつとさせる考え方も盛り込まれている。島崎晋氏の新刊「鎌倉殿と呪術 怨霊と怪異の幕府成立史」(ワニブックス)での記述から、北斗七星、南斗六星、死兆星を考察した。

 北斗七星は西洋で言う「おおぐま座」の熊の背から尾の部分なす七つ星のことで、古代中国では北天に位置し、ひしゃくの形に見えることから名付けられた。個々の星は枢・旋・璣・権・玉衡・開陽・揺光の名を付され、枢から権の四星は斗魁、玉衡から揺光の三星は斗杓または斗柄と呼ばれた。

 陰陽寮の天文部門で教材とされた『史記』の「天官書」には、北斗七星に関して「北斗は天帝の乗車で、天のなかを巡り、四方を統一し、陰陽の区別を立て、四季を分け、 五行の活動を滑らかにし、二十四節気を動かす。これらのことはみな北斗の役割である」とある。 同じく『漢書』の「天文志」には「北斗は天帝の乗車で、天帝はこれに乗って中央を運めぐり、天下に君臨し、陰陽を分け、四季を立て、五行をひとしくし、季節を移し、もろもろのきまりを定める。これはみな北斗にかかった仕事である」と説明されている。

 時代が少し下ると北辰(北極星)信仰と習合して、道教ではずばり、個人の運命・寿命を管理する司命神、さらには死を司る神「北斗星君」とされた。

 南斗とは西洋で言う「いて座」の中心部に柄杓形に並ぶ6つの星のことで、古代中国では南斗六星と命名された。天球を28に区分する場合は斗宿と称され、道教では北斗七星とは対の関係にあるとの考えのもと、生を司る神として「南斗星君」の名を与えられた。

 死兆星は北斗七星の柄の端から2番目に近い星ミザールの傍に見みえる星アルコルを指す。視力がよくないとミザールと重なって見えることから、アルコルをはっきり目視できなくなれば余命が長くないというので、古来、不吉な星とされてきた。漫画「北斗の拳」では不吉な星という位置づけはそのままだが、死兆星が見えたら余命わずかと、現実とは逆の設定にしているのが妙味となっている。

 北斗七星、南斗六星ともに「北斗の拳」のサブタイルである「世紀末救世主伝説」はもとより、中国拳法との関わりも見出せないが、陰陽説と五行思想を用いることでその点が上手く整理されている。

 陰陽説によれば、万物は陰と陽の二気からなり、両者は必要に応じて反発しあうこともあれば、融合することも。このような大前提があればこそ、北斗と南斗の対決を宿命とすることもできれば、北斗と南斗の融和が世界平和をもたらすことも可能となった。

 北斗神拳が一子相伝あるのに対し、南斗聖拳は大きな流派だけで6つもあり、南斗六聖拳と称されるが、慈母星としての宿命を背負うユリアは治癒能力しか持たないため、事実上は五聖拳といえる。南斗孤鷲拳のシン、南斗水鳥拳のレイ、南斗白鷺拳のシュウ、南斗鳳凰拳のサウザー、南斗紅鶴拳のユダの5人は、殉星・義星・仁星・将星・妖星とそれぞれ異なる宿命を背負わされており、これは五行思想の反映と見てよさそうだ。南斗最後の将となったユリアを守る南斗五車星、海のリハク、風のヒューイ、炎のシュレン、雲のジューザ、山のフドウの5人についても同じことが言える。

 一子相伝の北斗神拳が陰で、オープンな南斗聖拳は陽。核戦争を生き延びた人類が独裁者の支配下で苦渋の生活を強しいられるのか、救世主により解放され、再び自由と平和を手にすることができるのか。人類全体が重大な岐路に立たされていた状況下で、これを陰と陽の究極の対決として描くのは無理のない発想にして展開であった。

 平安時代末から鎌倉時代のターニングポイントに登場した陰陽師を取り上げた、島崎晋氏の「鎌倉殿と呪術 怨霊と怪異の幕府成立史」では、鎌倉幕府が編さんした歴史書「吾妻鏡」をもとにしながら、学校の教科書には出てこない歴史の綾、陰陽師に焦点が当てられている。来年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で描かれる北条義時、源頼朝、北条政子、梶原景時、比企能員などの背景について、陰陽師を軸に知ることができる。

 著書では有名な漫画作品と陰陽師との関連をコラムで触れている。「北斗の拳」のコラムでは、北斗七星と南斗六星と死兆星に続いて、中国拳法と作品の関係に仮説を立てながら考察が続く。「『呪術廻戦』の呪術高専と陰陽寮」「『キングダム』と呪術─秦の始皇帝の天下巡遊に秘められた意図」のタイトルに加えて、「当時の世界(鎌倉初期)──モンゴルと十字軍」「オスマン帝国は劣性挽回のために、新興著しいプロイセンに占星術師の貸与を要請」「独裁者も軍人も恐れる。現代でも信じられているミャンマーの黒魔術」など、世界史や現代にもまたがったコラムが収録されている。

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