実力だけではなく高い人気を誇るサッカー日本代表MF久保建英(くぼ・たけふさ)。その影響力にあやかって日本で知名度を上げているのが、彼がレンタル移籍でプレーしているスペインのマジョルカだ。怪我で戦線離脱している現状でメディア露出が少なくなっているなか、クラブ発のYouTubeが事実上久保の動向を知ることができる唯一の情報源となっている。これまでの経緯や今後の展望について同クラブのコミュニケーション部門ディレクター、アルベール・サラス氏に話を聞いた。
そもそもの発端は前回所属の2019~20季後半のロックダウンによるリーグ中断、その後の選手自身の急成長だという。サラス氏は「リーガ再開後のエイバル戦で彼が素晴らしい活躍をし調子を上げたが、同時にコンテンツ視聴で目に見える形での上昇が見て取れた。だから彼に焦点を当てた構成をすることになった」と目玉商品として前面に押し出すきっかけを語った。
特にユーチューブでの“タケ推し”は徹底されており、昨季は練習でのテクニック動画にとどまらず、移動中に聞いている音楽、試合後のファンとの交流といったファン視点のビデオを公開。中には練習中のちょっとした1シーンを前面に押し出した「微笑むタケ」という見出しのものも。もはや選手の成長日記といった様相で、一部の日本人ファンからは「タケチューブ」と呼ばれている。これまでに公表した久保関連ビデオは2シーズンで100以上。久保が過去に所属したクラブを見ても、ビジャレアルが出した久保ビデオは11、ヘタフェが4にとどまっており、力の入れ方は明らかに他と一線を画している。
今後日本への展開は、活動継続とブランド化。「今やっているのはこれまでものを受け継ぎ、強化すること。タケとはレンタル契約だから長期間のプロジェクトは展開できない。ただクラブにはこれまで大久保嘉人、家長昭博がプレーしていて現在のメーンスポンサーは日本企業のタイカ。いずれにしても日本との関係を大事にしたいと考えている」。根底には自身が体験したファン心理がある。
「以前(カードライバーの)フェルナンド・アロンソが活躍し始めた時、F1のことなんて何も知らなかったけど、彼が何をしたか知りたかったから動向を追っていた。またリバプールが複数のスペイン人選手を抱えて『スパニッシュ・リバプール』って言われていた時に愛着を持っていた。そういう愛情やポジティブな感覚が一つのブランドになる。今レアル・マジョルカがやっているのはそういうもの」と説明している。
もっともこれだけで止まるつもりがないのが貪欲なところ。久保で得ている経験を生かし、今季加入した韓国代表MFイ・ガンイン、米国代表のFWマシュー・ホッペを突破口に新大陸への展開を視野に入れている。「戦略としてはそれぞれの地域で展開するということ。単に言葉が違うということではなく(文化や社会背景などを含めた)それぞれの言語があり、メディアがある。そういうものを理解しながら進める」と、郷に入っては郷に従う方式で多方面展開するとしている。
まずは結果を出してナンボのスポーツの世界。そのビジネスチャンスはチーム(選手)の成績次第で見通しが読めない部分が多く、資金や条件などに限界があればなおさら簡単ではない。それでも手元にあるものを最大限に活用しインターネットを使って自らの可能性を広げようとする取り組みは、他の業種や分野でも参考になるのかもしれない。