太平洋戦争の終結後も30年近くに渡ってフィリピン・ルバング島に潜伏した旧日本陸軍少尉・小野田寛郎さん(2014年、91歳で死去)を題材にした映画「ONODA」(配給・エレファントハウス)が10月8日からTOHOシネマズ 日比谷ほかで全国公開される。成年期の小野田さんを演じた津田寛治が、よろず~ニュースの取材に対し、同作への思いを語った。
終戦後も任務解除の命令が届かなかったため、ルバング島で日々を過ごし、1974年3月に51歳で日本に帰還した小野田さん。その実話を元に、フランス人のアルチュール・アラリ監督が映画化し、青年期を遠藤雄弥、成年期を津田がダブル主演で演じ分けた。今年のカンヌ国際映画祭・ある視点部門のオープニング作品に選ばれ、今秋、日本での公開が実現する。
撮影は2018年12月から19年3月まで行われた。13キロ減量して臨んだ津田は「日本の小野田寛郎さんという兵隊さんに、フランスの若い監督さんが心を打たれて何年も準備して映画化した。その現場に参加できて光栄です」と振り返り、「ジャングル」が同作の主題だと実感したという。
「今のフィリピンに当時のルバング島みたいなジャングルはなかったらしくて、カンボジアの空港から車で5、6時間くらいの所にあるカンポットという町の近くのジャングルで撮影しました。ジャングルは自分自身と向き合える場。中でも一番向き合っていた監督を見た時に、『小野田さんを描きたいというのもあったけど、監督はジャングルを描き、ジャングルに向き合う人を描きたかったんだな』ということが分かりました。だから、当時の歴史を掘り下げるとか、日本は戦争を経てどうなったのかという風に物語は流れず、人がジャングルに向き合う究極の瞬間がシンプルに描かれています。虫に刺されるなんて日常茶飯事。僕にとっても、ジャングルと一体化した、不思議な体験でしたね」
小野田さんの日本帰還当時、津田は小学3年生。日本中が湧いたニュースの記憶はある。
「僕が9歳になる年で、テレビで記者会見を見ている時は超人に見えました。まだ戦争は終わっていないと思って(戦時中から)30年以上もジャングルにいた人なんだと思った時に、僕らとは体のつくりから何から違う人なんじゃないかという、畏怖の念を覚えましたね。子どもだから、30年間もお風呂に入ってなかったのかな?動物のように木の実とか食べてたのかな?とか、そんな驚きもありました」
自身が演じた小野田さんの人物像を語った。
「今回の役に当たって小野田さんの書物を拝読しました。お国のために死んでしまえれば、自分も日本という『神国』に同化できるのに、生き延びろという大変な任務と使命感を芯に持って、お国のため、天皇陛下のために生き、(74年に)自分の上官である谷口陸軍少佐に任務を解いていただくことで終戦したということを自分の腑(ふ)に落とし込んで帰国された。日本に戻ったら靖国に行き、戦死した部下たちの家にも行って親族にわびたいと思っていた…という手記もあって、日本人の中の日本人だと誇らしく思えましたね」
フランス人監督が描いた日本兵。独特の世界観のある映画で見て欲しいことは。
「パールバーバーが有名ですから、どうしても海外の監督さんが描く日本兵は悪役であることが多かったと思いますが、そことは全く違う。かといって、日本の監督さんが描く、大和魂を胸に持ちながら特攻で散った若者とか、そういう熱烈な日本兵ともまた違う。今まで見たことのない日本兵や日本軍が描かれている。そこが大きな見どころだと僕は思っていますし、その部分を見ていただきたいです」