資産家の老女が、自宅の寝室で殴り殺されているのが見つかった。その寝室には耐火金庫があったが、その扉は開けられ、中にあった現金や宝石がきれいになくなっていた。
「物取りの犯行か?」
現場についた加茂警部が聞くと、根木刑事が首を振った。
「金庫は傷ひとつなく開いてます。ダイヤルの番号を知っていた者の犯行ではないかと。被害者・大平志麻には3人の孫がいて、3人とも番号を知っています」
「彼らの話を聞こうか」
◆大平千花「朝、訪ねてきて祖母の死体を発見しました。昨日の夜のアリバイですか…私は画家志望で、夜は家で絵を描いてました」千花は右手で絵筆を持つ仕草をしてみせた。
◆大平清勝「犯人が憎いですね。昨日の夜ですか…シガーバーに行ってました。葉巻が好きなもので…」清勝は、葉巻とマッチを取り出すと、右手でマッチをすって火をつけ、吸い始めた。
◆大平峻平「ショックです。アリバイですか…深夜営業のゴルフ練習場にいました。友人から『驚異のレフティ』と言われる腕前を保ちたいのでね」峻平は軽くスイングの真似事をしてみせた。
話を聞き終わると、根木刑事が新たな報告を持ってきた。 「金庫の前に、遺留品がありました。マッチの燃えカスです」 「マッチの…?」 警部は金庫を見に行った。家庭用の耐火金庫で、扉の真ん中にダイヤルがある。床を見ると、確かにマッチ棒の燃えカスがあった。落ちている場所は、ダイヤルの右側だった。(図参照)
「昨日の夜、この地域に雷があって、一帯が停電しています」根木刑事が補足する。 「どうやら殺人の後、部屋が停電で暗くなったのでしょう。犯人は、金庫を開けるためにマッチをともし、その灯りでダイヤルを回したようですね。灯りが他になかったんでしょう」
「なるほど…犯人がわかったよ」 さて、警部が推理する犯人は?