深夜の繁華街で、その事件は起きた。
上松幸治は、常連のバーを出て裏通りを歩いていた。すると雑居ビルの間の路地から、女性の悲鳴が聞こえたのだ。あわてて駆けつけ、細い路地に入る。
「あ!」思わず叫んだ。
若い女性が倒れている。その側に男が立っていた。暗くて顔は見えないが、居酒屋の制服を着ているのがわかった。男はすぐに背を向け、逃げてしまった。
女性の元へ駆け寄る。助け起こそうとして、彼女が白人女性であることに気がついた。頭から血が出て、金髪の髪が赤く染まっている。
「オトコガ…ナグッテキタ…」
彼女が片言の日本語で言った。そして次に奇妙な言葉を口にした。
「…シャープ…ボックス…」
「え?」意味を聞き返そうとしたができなかった。彼女はもう気絶していた。
◇ ◇
根木刑事が、加茂警部に報告する。
「救急車で運ばれた女性の名は、持ち物からリンダ・ホワイトとわかりました。日本観光に来た英国人です。まだ意識不明ですが、命は助かると医者は言ってます。それと、発見者が犯人の服についてこんな証言をしてますよ」
◆上松幸治の証言
「逃げた男は、裏通りの居酒屋『美酒の里』の制服を着てました。赤色の作務衣で特徴的なんですよ。路地が明るかったら、男の顔か、制服の胸についている名札が見えただろうに…残念です」
調べてみると、事件のあった時刻に居酒屋『美酒の里』にいた男性店員は次の3人。
▽箱田康平
▽井口健太
▽小山大志
「3人の誰か…まだ、決め手に欠くな」
警部が悩んでいると、根木刑事が新しい情報を伝えに来た。
「リンダさんの家族と国際電話で話しました。初の来日で、日本語は少し勉強したけど、カナや漢字はまだ読めないそうですね」
「ん…そうか!『シャープボックス』の意味がわかったぞ。犯人はあの男だな」
さて、警部が推理する犯人の名前は?