「尾行していた男が消えたんだって?」
加茂警部が聞くと、麻薬捜査班の志賀刑事が悔しそうに話し始めた。
「追い詰めたはずが、まるで煙のように消えて…。どうやったのか謎なんです」
◇ ◇ ◇
麻薬捜査班は、密輸グループの一員の川波光男という男をマークしていた。Pホテルに宿泊する彼を、刑事4人で見張ったのだ。
夜の8時過ぎ。川波がロビーに現れた。黒いコートに黒い帽子。まるで黒い影だ。大きいバッグを持ち、携帯電話で話をしている。
「顔が見えた、間違いなく川波だ」。緊張が走る。
川波がホテルを出た。
「尾行するぞ。車に乗るかもしれない…」
黒い影はしばらく歩くと、停車していたタクシーに乗った。トランクを開けさせ、バッグをそこに入れると後部座席に乗りこむ。
「やはり…少し車間をあけて追おう」
4人の刑事は覆面パトカーで尾行した。
タクシーは15分ほど走り、あるスポーツ・バーの前で止まった。まずトランクが開くと、タクシーから黒い影が降りる。影はトランクの荷物を取ると、素早くスポーツ・バーに駆け込んだ。
「気づかれたか!」。刑事たちが追う。
スポーツ・バーの中は混雑していた。店内に50人以上の男女がいて、巨大なテレビ画面を見て騒いでいるのだ。
「今日は、サッカー日本代表の試合か…」
「逃がすとまずい。捕まえよう!」
刑事たちは出入り口を固めると、バーにいる全員を足止めし、一人一人調べた。
だが……。川波はいなかった。
「裏口は鍵がかかり、出入り不可能でした。トイレに、黒いコートと帽子、バッグがあり、奴が店に入ったのは間違いないんです。それなのに、人間だけ消えて…」
「密輸グループには仲間も多いんだろ」
「ええ、でも協力者がいても人を消すことはできませんよ!」
「いや、できるさ」警部が言った。
さて、警部の推理する真相は?