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足腰に不安があっても もっと旅へ 「おもてなしの心」で広がるバリアフリーツアー 経済効果は8880億円

悠々〜ライフ

田中 靖 田中 靖
画像はイメージ(UTS/stock.adobe.com)
画像はイメージ(UTS/stock.adobe.com)

 桜舞う陽気に誘われ、どこかへ出かけたくなる春。だが、足腰に不安があると「行きたいのに行けない」と感じている人も少なくない。ゴールデンウイークの旅行シーズンを前に、身体が不自由でも安心して楽しめる旅のヒントを探った。

 名所旧跡やパワースポットは、歴史ある木造建築が多く、階段や段差、砂利道も多い。車いすでの移動は容易ではなく、山上に位置するなど立地条件も厳しいため、身体に不安があると訪問をためらいがちになる。

 しかし、近年はこうした観光地でもバリアフリー対応が着実に進んでいる。スロープやエレベーター、多目的トイレの整備に加え、車いすの貸し出しを行う施設も増えてきた。

 三重県の伊勢神宮では、通常の車いすでは進みにくい玉砂利の参道でも利用できる電動車いすを無料で貸し出している。昨年は1万3475台が利用され、「参道を進むのが不安だったが楽に参拝できた」「無料で利用できることに驚いた」といった声が寄せられているという。

 事前にバリアフリー情報を確認することで、旅行のハードルは大きく下がる。

 ウェブサイト「車椅子で行く神社仏閣・パワースポットの旅」を運営するハンドルネーム・tabisora110さんは、個人で全国600件以上を調査し、バリアフリー情報を発信してきた。「公式サイトのほか、自治体や観光協会、福祉団体のサイトをチェックし、スロープや駐車場の位置まで確認できると安心です。地図サイトの写真やストリートビューからも、路面状況や段差の有無といったヒントが得られます」と話す。

 入念に調べていても、現地で経路に迷い、迂回を余儀なくされることは珍しくない。移動時間は「一般の1.5倍から2倍を目安に」と、余裕を持った計画を勧める。

 一方で、地方では情報発信が十分とは言えない施設も少なくない。「公式サイトがないなど、観光面でのアピールが不足している神社仏閣も見受けられます」とtabisora110さんは指摘する。

 こうしたニーズに応えるのが、近年広がる「バリアフリーツアーセンター」だ。2002年設立のNPO法人・伊勢志摩バリアフリーツアーセンターは、「障害の種類や身体の状態によって必要な情報は異なる」とし、目的に応じた宿泊・観光施設、利用可能なサービスなどきめ細かな情報提供や旅行計画のアドバイスを行うほか、ウェブサイト「三重県バリアフリー観光情報サイト」を運営。「利益にとらわれず、利用者に最適な選択肢を提示できることがNPOの強み」と情報発信を強化している。360度画像で客室内を確認・移動でき、段差の寸法まで把握できるバリアフリー情報サイト「IKKEL(イッケル)」の構築に向けても同センターがアドバイスを行った。

 こうした動きが広がる一方、個々の施設で対応が進んでも、周辺の飲食店や交通機関との連携には課題もあり、「点」でのバリアフリーにとどまっている現状もある。また、これらの整備が進んでも、ハード面だけでは十分とは言えない。

 スロープや手すり、多機能トイレといった設備が整っていても、「ご自由にどうぞ」と任せるだけでは、高齢者や障がいのある人は周囲に気を遣い、手間や混雑を心配して利用をためらうこともある。

 重要なのは「心のバリアフリー」だ。

 観光施設のスタッフだけでなく、周囲の人々がさりげなく声をかけることで、身体の不自由な人も安心して行動できる環境が生まれる。ただし、過度な介助も避けるべきだという。「すべて先回りするのではなく、『お賽銭を入れる』『御朱印帳を受け取る』といった参拝ならではの楽しみを積極的に味わってもらうようにすることも、旅の満足度を高める上でのポイントです」とtabisora110さんは話す。

 伊勢志摩バリアフリーツアーセンターも観光・宿泊施設向けの研修を実施。「特別な対応ではなく、日常のおもてなしの延長として考えることが重要」とし、従業員の主体的な対応を促している。

 観光庁も、高齢や障がいの有無にかかわらず誰もが楽しめる「ユニバーサルツーリズム」の普及を進め、「心のバリアフリー認定制度」を創設。基準を満たした施設に認定マークを付与し、利用者が選びやすい環境づくりを進めている。

 同庁の報告書(2023年)によると、外出に何らかの不自由がある高齢者や障がい者を含む旅行市場規模は年間約2955万人。潜在的には約4195万人とされ、1200万人超が「行きたいのに行けていない」状況にある。

 金額ベースでは、年間市場規模は現在2兆1256億円で、潜在的には3兆136億円と推計。不便と感じている点が解消されれば、新たに8880億円の市場拡大が見込まれている。

 ほんの少し周りに目を配る余裕があれば、旅はもっと優しくもっと自由になる。同時に、大きな経済効果を生む可能性も秘めている。「おもてなしの心」でつながり、誰もが安心して出かけられる社会が、次の「行きたい場所」を確実に増やしていく。

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