60代のAさんは、地方にある先祖代々のお墓を一人で守ってきた。しかし自身も高齢となり、年に数回の帰省とお墓掃除が体力的に厳しくなっていた。都会で暮らす子どもたちにはお墓を引き継ぐ意思はないため、Aさんは墓じまいを決意する。
ところが、長年付き合いのあった菩提寺の住職に相談したところ、事態は一変。「先祖をないがしろにするのか」と厳しく諭され、さらには数百万円もの離檀料を暗にほのめかされてしまった。さらには事情を聞きつけた田舎の親戚からも「勝手なことをするな」と非難の電話が相次いだ。
Aさんは墓じまいを進めることはできるのだろうか。墓じまいを円満に進めるための手順について、遺言・相続手続きに詳しい北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞いた。
ー墓じまいを円満に進めるための手順を教えてください。
まずは、現在お墓がある自治体から改葬許可証を得る必要があります。そのためには、今のお寺から埋葬証明書を発行してもらい、新しい受け入れ先(納骨堂や永代供養墓など)から受入証明書の発行を得ることが一般的ですが、埋葬の態様や各自治体によっても対応が異なるようです。
書類を揃える前に行うべきは、お寺への事前の相談です。いきなり「やめます」と告げるのではなく、まずは法要の際などに、将来的に管理が難しくなることを少しずつ相談し、理解を得るプロセスを設けてください。話し合いの場も持たず、一方的な「やめます」との通知は、埋葬証明書の発行を得るうえでよいやり方とはいえないでしょう。
ー墓じまいには、一般的にどのくらいの「費用」がかかるのでしょうか?
墓石の撤去費用(敷地1㎡あたり10万〜30万円程度)、お墓を更地に戻す工事費、お魂抜きなどの布施、新しい納骨先の費用などがかかります。これらを合わせると、幅がありますが総額で50万〜150万円程度の費用が見込まれます。
ーお寺(住職)との交渉や離檀料についてはどう考えればよいですか?
墓地の態様により必ず生じるものではありませんが、離檀料という名目の費用は、寺墓地の場合に生じることが多く、あくまでこれまでの感謝の気持ちとして包むお布施の一種です。おおむね数万〜数十万円程度ですが、稀に数百万円といった高額な請求をされるケースもあるようです。
「お寺を捨てる」のではなく、「事情があってお墓を近くに移したい」と真摯な姿勢で話し合うことが必要です。もし高額な請求が止まらない場合は、弁護士などの専門家への相談を検討してください。
ー親戚の反対に対しては、どのように説得すればよいでしょうか。
親戚が反対する主な理由として「自分たちの拠り所がなくなる寂しさ」や「伝統へのこだわり」が考えられます。
説得の際は、「このまま放置すれば、将来的に無縁仏になってしまうリスク」を具体的に説明してください。「お墓を残すことで、子どもたちに迷惑をかけたくない」という個人の思いだけでなく、「先祖の供養を途絶えさせないための前向きな選択であること」として提案してみるのはいかがでしょうか。
また、親戚の中の強力な反対者に対しても、個別に、新しい納骨先にお参りしやすい場所を選んだことなどを丁寧に説明し、理解を求める努力も必要です。
なお、2026年1月1日の行政書士法改正により、前述の改葬許可証にかかわる書類の作成や代理申請を、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て行う場合には、刑事罰の対象となる旨ルールが変わったことに注意してください。
◆松尾武将(まつお・たけまさ) 行政書士
長崎県諫早市出身。前職の信託銀行時代に担当した1,000件以上の遺言・相続手続き、ならびに3,000件以上の相談の経験を活かし大阪府茨木市にて開業。北摂パートナーズ行政書士事務所を2022年に開所し、遺言・相続手続きのスペシャリストとして活動中。ペットの相続問題や後進の指導にも力を入れている。