「オレンジ色」で思い浮かぶモノといえば-。ミカンに夕焼け、秋の紅葉、サッカーのオランダ代表や読売ジャイアンツ、今なら参院選で躍進した政党を思い浮かべる人もいるだろう。世の中にいろいろある「オレンジ色」の中で、高齢化社会の心強い味方となっている「オレンジ色」がある。「認知症サポーター」が身につける「オレンジリング」だ。
年々増加する高齢者の認知症患者は今年、厚労省の推計では470万人を超え、75歳以上になると何らかの症状が出始めるとされる。「認知症サポーター」とは、その認知症について正しく理解し、認知症の人や家族を温かく見守り、できる範囲で支援する人のこと。厚労省が2005年から進めている全国的な取り組みで、特別な資格やボランティア義務はなく、90分の無料講習を受ければ誰でもなることができる。「オレンジリング」は受講済みを示す証(あかし)となっている。
認知症の人の中には、外出した際に道や目的地が分からなくなったり、小銭を計算するような買い物が難しくなることがある。認知症サポーターは、こうした困りごとを必要があれば手助けする、いわば〝善意の運動〟。逆に、困ったときには「オレンジリング」を身につけている人を見つければ、サポートを受けやすい。そのための視認しやすい鮮やかな「オレンジ色」だ。
実際に「外出先で認知症の妻がトイレに行ったきり出て来ないため、夫が『オレンジリング』を付けた女性を見かけて事情を伝え、妻を無事連れてきてもらえた」という事例もある。
適切な支援ができるよう、認知症サポーターは講義で認知症になった人の気持ちや症状、予防法、治療法などについて理解を深め、「驚かせない、急がせない、自尊心を傷つけない」といった対応の仕方を学ぶ。神戸市で23日に始まった本年度の講座で講師を務めた岡本圭左さん(50)は「認知症はゆるやかに進む病気。急に何もできなくなる、というものではありません。余裕を持って、自然な笑顔で、独立した個人として見てあげてほしい」と認知症の人との接し方のポイントを説明する。
見知らぬ人に声をかけるのは勇気がいる。困っているように見えても〝おせっかい〟と受け止め、逆ギレされる可能性すら考えられる。それでも、認知症サポーターを志す人は多く、6月までに全国で1635万人を超えた。神戸市の講座に参加した男性(51)は「見過ごしてしまえばラクですけど、後で『あの時声をかけておけば…』と後悔するかもしれない。自分自身がいつか、助けてもらえたはずの当事者になるかもしれないし」とできる範囲での活動を考えている。岡本さんは「まずは見守ってあげて、声をかけるのも無理のないように。気になった情報を地域包括支援センターなどに知らせてくれるだけでもいい」とアドバイスを送る。
草の根の活動ゆえ、受講者の“その後”の活躍は見えにくく、認知症サポーターの課題でもある。その中で、神戸市社会福祉協議会は受講者に「高齢者安心登録事業」のメール登録を呼びかけている。行方不明の事案が発生した際、「捜査協力者」として情報提供を行うネットワークの一員への登録だ。不明になった場所から遠く離れた場所で発見されることもあり、より広範囲での登録者数増を目指している。
困っている人をより多くの地域の目で見守り、手助けする。誰もが少しずつ、誰かの力になれる「オレンジ色」の輪。優しさの連鎖が、これからの高齢化社会を支える力になっていく。