我が子を中学受験に挑戦させようと考えたとき、最初に選択を迫られるのが、「どの塾に通わせたらいいだろうか」ということ。塾選びの大きな決め手の一つが「合格実績」だろう。「○○塾はA中にX人合格させているけど、△△塾はそれより少ないY人。じゃあ、○○塾ね」といった具合に。そんなふうに各塾の合格実績を調べていると、やがてあることに気がつく。「何だか多すぎない?」と。
たとえば、男子最難関・開成中の2025年の合格実績を各塾ごとに並べてみる。
SAPIX 263人
早稲田アカデミー 161人
四谷大塚 128人
日能研 38人
浜学園 32人
エルカミーノ 18人
グノーブル 13人
希学園 12人
市進学院 10人
臨海セミナー 10人
二桁以上の合格者を輩出した塾の合計を足してみると、685人。一桁の塾も合わせたら、700人を超える。開成の定員は300人だが実際の合格者は431人と発表している。ではこの250人以上の差は、どのように発生するのだろう。
この疑問に答えてくれたのが、人気YouTubeチャンネル「[中学受験]大手塾の裏情報by 鉄仮面」を運営する鉄仮面先生だ。元大手中学受験塾の講師で、現在も自身が運営する塾で指導しながら、中学受験の闇に迫る動画を配信している。
鉄仮面先生は、「某大手塾の合格者は、発表している数字の3~5割が外様」と、その塾の講師からの内部情報として明かした。
最も考えられるのがダブルスクール、つまり複数の塾に通っている例。A塾に本籍を置きながら、B塾の志望校別講座をに通うパターンだ。たとえば早稲田アカデミーはNNと呼ばれる冠講座がある。予想問題や傾向分析で定評がある。
数年前にSAPIXに子供を通わせながら、早稲アカのNNに籍を置かせたという男性は話す。
「早稲アカの模試を受けたらNNに特待生で入れることになったので、通わせました。NNは成績でクラス分けがあるのですが、最上位はサピ生ばかりだったようです。授業も、SAPIXの授業がない日に用意されていました」
男性は続けて「2週ほど通ったんですが、復習する時間もなく、子供もしんどそうなので通わなくなりました。その後はテキストが送られ、毎週、子供の様子を確認する電話がありました。結果、志望校に合格しましたが、合格したか確認の電話がありました。テキストは使わなかったけど、お世話にはなったので、合格を報告すると、『規定により塾の合格者に入れさせていただきます』と返事があったので、ダブルカウントされているのでしょうね」とも語った。
早稲アカは近年、最難関受講生向けにSPICAもスタート。こちらにもSAPIXのトップ層が通うパターンもあり、ダブルスクールの例はかなり多そうだ。
これらのケースは実際に両方の塾に在籍していたので、わかりやすい。微妙なケースとして、鉄仮面先生が指摘したのは「四谷、早稲アカ重複問題」だという。四谷大塚は自社テキスト「予習シリーズ」を製作しており、塾生は予習シリーズで勉強した上で、毎週土曜日に「YT」と呼ばれるテストを受ける。早稲田アカデミーも、この予習シリーズとYTを採用している。四谷大塚の合格実績には「合格者数は、四谷大塚ネットワークに継続的に在籍し、四谷大塚が開発した教材および教育サービスで学習した生徒を対象として集計しております」と明記されている。それゆえ、YTを受けている早稲アカ生は、四谷大塚の合格実績にカウントされているのでは?ということなのだ。
鉄仮面先生は「四谷大塚としては昔からのシステムでやっているので、何を今更という話ですが、早稲アカの拡大に伴って、四谷大塚の合格カウントされる生徒が増えてしまっています。近年、合格者数を増やしている臨海セミナーも予習シリーズを利用しているので、こちらも重複していると考えられます」と明かした。その上で「四谷大塚の塾、提携塾を除いた生徒のうちの合格者を発表してもらうと、わかりやすくなるんですけど、イッキに合格実績が下がるので難しいでしょうね」と語った。
塾を合格実績だけで選ぶのは危うい。雰囲気や講師と子供の相性なども大切にしながら、受験のパートナーを見分けるべきだろう。