30代のAさんは父親から突然、「遺言書はパソコンとスマホの中に保存してあるからね」と言われた。しかし、その言葉に「遺言書って手書きじゃなくてもいいの?」とAさんは疑問を抱く。データであれば、あとから内容を書き換えることもできるため、父親の意思を示すものとして扱われるのかも気になるところだ。
父親に万が一のことがあったとき、せっかく残してくれた意思が無効になってしまえば、相続をめぐって家族がもめることにもなりかねない。Aさんは、父親が残したデータをどう扱えばよいのか不安を感じている。
では実際に、パソコンやスマホに残された遺言は法的に有効なのだろうか。弁護士の中島真実さんに話を聞いた。
パソコンやスマホに残すだけでは正式な遺言にならない
ーパソコンやスマホに残された遺言は、法的な効力を持ちますか?
原則として、パソコンで作成した文書やスマートフォンのメモに残しただけの内容は、民法が定める遺言の方式を満たさないため、遺言としての法的効力は認められません。
民法960条は「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と定めています。自筆証書遺言についても「遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」としています。
ただし、相続財産の目録についてはパソコンで作成することが認められています。この場合も、遺言者本人が財産目録の各ページに署名・押印する必要があります。
ー自筆証書遺言として認められるためには、どのような要件を満たす必要がありますか?
遺言者本人が遺言書の全文、作成日付、氏名を自書し、押印することが必要です。日付も「○年○月吉日」ではなく、作成日を特定できるよう具体的に記載する必要があります。
また、遺言書を訂正・追加する場合には、所定の方式に従って訂正する必要があります。
ーパソコンで作成した文書を印刷し、署名・押印した場合はどうでしょうか?
原則として、パソコンで作成した文書を印刷し、本人が署名・押印しても自筆証書遺言書とは認められません。
民法968条1項は、自筆証書遺言について、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないと定めています。そのため、本文をパソコンで作成し、署名だけを自筆にした場合は、「全文を自書する」という要件を満たしません。
ー正式な遺言として認められないデータでも、本人の意思を示す資料として相続で意味を持つことはありますか?
あります。たとえば、相続人間で遺産分割について話し合う際に、本人が生前どのような希望を持っていたのかを確認する参考資料として扱われることがあります。ただし、そのデータ自体に正式な遺言と同じ効力があるわけではないため、相続人間で合意が得られない場合に、単にそのデータが存在するという理由だけで、その内容どおりの遺産分割を強制することはできません。
相続人全員が内容に合意すれば、その意向を遺産分割に反映することはできますが、合意がなければ、データの内容どおりに分けることを強制することはできません。
◆中島真実(なかしま・まみ) 弁護士
同志社大学法学部を卒業後、名古屋大学法科大学院を修了。豊田市の弁護士法人たいよう総合法律事務所に所属し、相続、交通事故、不動産等の民事事件を中心に幅広い分野の案件を取り扱う。
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