ドナルド・トランプ米大統領が「人工知能(AI)」という言葉を歴史の闇に葬り去ろうとした試みが、思わぬ事態を引き起こしている。同氏が推奨する代替語「スーパー・インテリジェンス(SI)」のイニシャルと一致したことで、ヨーロッパの小国スロベニアの国別ドメイン「.si」の取得ラッシュに発展している。
トランプ氏は9月29日、連邦機関に対し、公式文書やウェブサイト、政策書類において「人工知能(AI)」ではなく「スーパー・インテリジェンス(SI)」を使用するよう命じる大統領令に署名した。ニューヨークでの国連総会演説でこの用語をアピールした直後の決定で、トランプ氏は「「人工(アーティフィシャル)」という言葉は偽物のように聞こえる。これは偽物ではなく、実に素晴らしいものだ。慎重になる必要はあるが、スーパー・インテリジェンスの新世界へようこそ」と自身の考えを語っていた。
この改称の波紋はワシントンから数千キロ離れたスロベニアへと跳ね返った。同国のウェブサイトではドメイン末尾に「.si」が使われるが、トランプ氏の用語変更に伴い、商業的価値が急上昇するとの見方が広がったためだ。ドメイン管理団体Registry SIの広報担当者クララ・ヘルマン氏によると、9月の「.si」ドメイン登録数は4万4000件に達し、2000件未満だった8月から約2100%という爆発的な増加を記録。9月30日の単日だけで1万1000件もの新規登録が押し寄せたという。
この急増の背景には将来の高値売却を見越してドメインを先回り取得する「サイバースクワッティング(不法占拠)」の動きがあるとみられている。過去には「ドメイン・キング」の異名を持つリック・シュワルツ氏が、1997年に「men.com」を1万5000ドル(約236万2000円)で購入し、7年後に132万ドル(約2億790万円)で売却した有名事例もある。
一方で、AIという用語を排除する動きは単にトランプ氏のパフォーマンスにとどまらず、米政府の公式政策として急速に浸透しつつある。今回の命令により、行政省庁は法的に可能な限り、公式書簡や広報、レポートなどで「SI」を使用することが義務付けられた。
さらに、トランプ氏はホワイトハウスにイーロン・マスク氏やマーク・ザッカーバーグ氏、ジェンスン・フアン氏らテクノロジー企業の首脳陣を集め、先端技術開発に関する自主的な枠組みJoint Commitment on Frontier Responsibilitiesを発表。中国の習近平国家主席との会談でも二国間協議の名称を「米中スーパー・インテリジェンス対話」へ改称するなど、外交の場にも新用語を持ち込んでいる。