昨年公開された映画「国宝」は歌舞伎の世界で頂点に立つ“人間国宝"に登りつめた激動の姿が描かれた。同じく伝統芸能である講談界の人間国宝は神田松鯉。歌舞伎では立役や女方、脇役など現在6人の人間国宝がいるが、講談界では松鯉ただひとりだ。
松鯉が人間国宝(重要無形文化財保持者)に認定されたのは2019年。講談師では六代目一龍齋貞水に次いで、2人目となる。重厚で緻密、そして端正な高座。人柄を感じさせる温かい口跡は、聞く者を一瞬にして引き込む。
松鯉の名跡は、二代神田伯山が晩年に名乗った隠居名がはじまりで、当代は三代目。人間国宝になっての変化は「品行方正になったこと」と茶目っ気たっぷりに明かす。「楽屋でも模範的ですよ」と笑う。芸としては変わらないというが「責任の大きさ」を実感している。83歳になったいまも、全国各地で口演。「器用じゃないですが、できるだけ喜んでいただけるよう、演目を選んでいる」と謙虚な姿勢を見せる。
7月のある夜は神戸新開地・喜楽館で、独演会が開催された。大阪・神戸で江戸落語や講談会を開催する吉田食堂主催で毎年7月に開催されており、今年で5回目。「毎回来て下さるお馴染みの方も増えた」と東京以外での広がりも感じ取っている。
また伝統芸能で大切なのが後進の育成。惣領弟子の鯉風を筆頭に、阿久鯉、鯉栄、そして講談界の風雲児とも呼ばれる六代目伯山などを育てた。そんな弟子たちの成長や活躍を「師匠の教えがよかったんじゃない。本人の力ですよ」と笑う。
松鯉の方針は「決して押しつけない」こと。「押しつけたり、教えすぎると師を超えない。個性が伸びない」と弟子の活躍が、その指導手腕の確かさを物語っている。
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神田松鯉(かんだ・しょうり)1942年9月28日生まれ、83歳。群馬県出身。61年、新劇・松竹歌舞伎等の俳優を経て芸界入り。70年に二代目神田山陽に入門。前座名陽之介。73年二つ目に昇進し小山陽と改名。77年、真打に昇進。80年「ビジネス講談」を始め、大当たり。92年三代目神田松鯉を襲名。長編連続講談の復活・継承に積極的に取り組む。19年に人間国宝に認定。