「胸やけがする」「のどがイガイガする」「咳が長引く」。こうした症状を風邪や疲れのせいだと思っていないだろうか。実はその背景に、「逆流性食道炎」が隠れていることがある。
逆流性食道炎とは、簡単に言うと「胃の中の強い胃酸が、食道に逆流してしまうことで炎症が起きる状態」のことだ。胃酸は食べ物を消化するための非常に強い酸だが、本来は胃の中にとどまっている。しかし、胃と食道のつなぎ目にある引き締まった部分がゆるむと、胃酸が上に上がり、胸やのどに不快な症状を引き起こす。
神奈川県川崎市・新百合ヶ丘病院消化器内科の袴田拓医師は、主な症状について「胸やけ、呑酸(こみ上げ感)が典型的な症状です」とした上で、「のどのつかえ感、胸の痛みのほか、げっぷ、胃もたれ、吐き気、しゃっくりなども見られます」と説明する。
さらに、風邪と間違われることも少なくないという。実際に「風邪だと思っていた咳が長引き、耳鼻科や呼吸器内科を受診した結果、胃酸の逆流が原因だったというケースはしばしばあります」と話す。
こうした症状は近年、若い世代にも増えているという。背景について袴田医師は、「若い人ほどピロリ菌感染率は顕著に低く、感染率の高かった高齢世代よりも胃酸分泌が活発なことが挙げられます」と話す。また、「長時間のゲームやスマホ、パソコン業務が当たり前となり、姿勢が悪いことも胃内容物の逆流を助長している可能性があります」と指摘する。姿勢が悪くなるとお腹に圧力がかかり、胃酸が逆流しやすくなるというわけだ。
梅雨から夏にかけては特に注意が必要となる。「気圧や気温の変化で自律神経が乱れやすく、胃の働きが低下しやすい時期です。さらに、そうめんやアイスなど糖質に偏った食生活は、血糖値が乱高下し自律神経が乱れ逆流性食道炎のリスクとなります」と説明する。
見逃せないのは生活への影響だ。悪化すると食道に炎症が続き、日常生活にも支障が出ることがある。袴田医師は「放置すると出血や食道が狭くなるほか、炎症から最悪食道がんの発生も考えられます。副鼻腔炎や中耳炎の原因となる場合もあります。胸やけで勉強や仕事に集中できない、かがんで庭仕事ができないなど生活の質低下にもつながります」と注意を促す。
では、どのように予防すればよいのか。袴田医師は、まず生活習慣の見直しが重要だと強調する。「食べてすぐに横にならないこと、1~2時間は体を起こしておくことが大切です。また、食後すぐにスマホを見続けるような前かがみになる姿勢も避けてください」と話す。
さらに、「早食いや食べ過ぎを控え、腹八分目を意識すること」「肥満の改善」「食後に軽く姿勢を伸ばすこと」など、日常の小さな習慣の積み重ねが予防につながるという。
逆流性食道炎は特別な病気ではなく、誰にでも起こりうる“生活習慣の病気”だ。梅雨から夏にかけての時期は、体調不良と勘違いしやすい症状が増えるため、胸やけや長引く咳が続く場合は一度生活を見直すことが重要となる。
◆袴田 拓(はかまだ・たく) 新百合ヶ丘病院消化器内科科長、予防医学センター消化器内科部門部長。医学博士。1992年筑波大学医学専門学群卒、2002年筑波大学大学院卒。つくば双愛病院消化器内科、霞ヶ浦成人病研究事業健診センターを経て現職。分子栄養学の知見をとり入れ、奥行きのある診療に定評。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器学会認定消化器専門医、日本内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医。