今や日本における映画の週間興行収入ランキングにおいて上位を占めるのはほぼアニメ。ただし、歴代興行収入のベスト10にはまだ実写洋画は存在し、「タイタニック」(1997年)が277.7億円で第4位、「国宝」が「ハリー・ポッターと賢者の石」の203億円を上回ったものの、「ハリー・ポッターと賢者の石」はかろうじてベスト10には止まっている。もちろん1位2位と並ぶのは「鬼滅の刃」シリーズであり、現在、洋画離れは加速中とまで言われている。
確かに洋画を観に劇場へ足を運ぶと、中規模作品ではテレビでの映画放送がスタートした1960年代後半から1990年代にハリウッド映画を味わったであろう中高年の姿がポツポツと見受けられる。実際、近年のハリウッド映画は、マーベル作品やDC作品を始めとしたシリーズものが多く、すぐに配信で見られる作品が多いのも問題のひとつだが、ほとんどの映画館で劇場料金が大人2000円というのも足を遠ざける理由になってしまっている。この決して安くはない劇場料金を支払うには「失敗しない作品選び」が最近の主流となり、コアな映画ファンでない限り、口コミで話題になってから映画を観に行く層が増えているのも事実だ。
そんな中、洋画の救世主になるのではと期待される映画が、3月20日に日米同時公開される。その名は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」。現在、日本の本の週間ランキングで一位に輝くアンディ・ウィアーのSF小説を映画化したのは、主人公グレースを演じるライアン・ゴズリングだ。2021年、本になる前の原稿を入手した彼は映画化を切望し、「スパイダーマン:スパイダーバース」で米アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞したフィル・ロード&クリストファー・ミラーに白羽の矢を立て、スタジオを動かした。何故、宇宙を舞台にした地球滅亡の危機を救う壮大な実写映画プロジェクトに、アニメ監督を起用したのか疑問に思ったが、実際、映画を観てみると至極納得。なぜなら映画は彼らのようなバディモノであり、ライアン・ゴズリング扮する科学者で中学教師のグレースと宇宙で共にミッションに挑むのが、岩のような見た目の異星人ロッキーだからだ。
「プロジェクト・ヘイル・メアリー」には、よくある人類の危機を描くSF映画らしからぬ、可愛らしい帽子を被る描写やグレースとロッキーがお互いにジェスチャーを真似し合ったりと滑稽なやり取りが随所に散りばめられている。ただそのお陰で、子供も楽しめる映画になっているのは確かだ。なにより岩の異星人ロッキーにどんどん愛着が湧いてくるのだから仕草や喋り方は大事だ。宇宙の遥か彼方で出会った彼もまた、同じミッションを背負った宇宙人だったという展開。未知の原因によって太陽エネルギーが奪われ人類が滅亡すると思いきや、実は宇宙レベルの問題になっていて、他の星でもそれを食い止めるべく先鋭スタッフが宇宙に派遣されていたのだ。
まさに久しぶりのド直球感涙ハリウッド大作だ。「アルマゲドン」(1998年)ほど宇宙で頼れる仲間達は多くない。「ゼロ・グラビティ」(2013年)のように宇宙空間で孤独と戦うこともない。「インター・ステラー」(2014年)ほど哲学的な宇宙体験でもない。もっとエンタメ性が高く、もっと下の世代から上の世代まで楽しめるバディ作品なのが、この「プロジェクト・ヘイル・メアリー」だ。願わくば、日本の週間興行収入ランキングの上位になって欲しい。この映画によって洋画にも興味を持つ若者が増えることを願う。原作は大ヒット、「ラ・ラ・ランド」(2017年)、「バービー」(2023年)という若者にも支持された映画に出演するライアン・ゴズリングが主演。しかも映画館という巨大スクリーンで観るに相応しい、宇宙空間での命懸けのミッションだ。すでにヒットの要因は揃っている。本作の主人公グレースとロッキーのコンビは、自分達の星を救うだけではなく、世界の映画館を救う力を秘めていると思った。その力が多くの人の心を掴むことを祈るしかない。日本の映画館に洋画の火を消さないためにも。