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独身から考える社会の構図〜『サリー』38歳のヒロインを通して見る「不安」「幸せ」さまざまな感情

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「サリー」のワンシーン© 2023 ENLA Media Limited, The Graduate Co., Ltd., Bole Film Co., Ltd. and Lien Chien Hung All Rights Reserved
「サリー」のワンシーン© 2023 ENLA Media Limited, The Graduate Co., Ltd., Bole Film Co., Ltd. and Lien Chien Hung All Rights Reserved

 今や当たり前のツールとなったマッチングアプリ。一時期、周囲の友人からマッチングアプリトラブルについて相談を受けることが続いた。内容は性的な関係を持ちたがり、その後、関係を切られたというものばかりだったが、他にも金銭を要求されたというものまであった。映画『サリー』(16日公開)はそんなマッチングアプリ詐欺について監督が調べたことで生まれたオリジナル脚本で、台湾に暮らす38歳の独身女性の自分探しのお話だ。

 まず、主人公であるリンの生活環境が特殊だ。山間部で養鶏場を営む彼女は、若くして両親を亡くして以来、母親のように弟を育て、今や兄の娘も家に転がり込んでいる状態。物語は、弟が結婚して家を出て行くというタイミングで、姪にマッチングアプリを登録されるところから始まる。雄鶏と散歩をし、話しかけるのが日常だったリンは、サリーという偽名を使い、アプリ上で出会ったパリで画廊を営む男性とロマンチックなやり取りをするようになる。今まで、弟や姪の世話をして来た彼女が、女性として必要とされる喜びに目覚めていく本作。リンは独身だから周囲に心配され、マッチングアプリのことも小さな田舎町だからすぐに噂となる。この点は、台湾も日本もまったく同じで、リンを演じたエスター・リウが、独身の中年を取り囲む状況と感情をリアルに映し出していくのだ。

 彼女のそばにはいつも犬がおり、日々の生活ではたった一羽の雄鶏と沢山の雌鶏が彼女について歩いている。ベッドの横にはひよこ達が眠るケージがある。一見すると寂しくなさそうな日常なのに、周囲の言葉や態度により不安を抱え始めたのかもしれない。そんな中で、自分を女性として扱うフランス人のイケメンからメールで愛を囁かれたら、恋に落ちないわけがないだろう。「騙されているのでは」と弟に言われても、すっかり日常化した甘い言葉を手放すなんて簡単に出来るだろうか。こうして映画の舞台は、動物や自然に囲まれた台湾の山間部の風景から、歴史的な建物やセーヌ川が流れるお洒落なフランスはパリへと移るのだ。

 38歳という年齢を過ぎ、結婚をした自分も「不安」というこの感情を経験した。それは「独身は不幸なのか?」という問いでもあった。周囲が次々と結婚し、友人が子どもを産むと次第に不安になる。自分は、あの時期に“子どもが欲しい”という思いに気付いたが、あの不安は紛れもなく周囲からの目だった気がする。何より“誰かに愛され、社会的責任を結婚で得られたら安心する”という摩訶不思議な感情を持っていた。そんな不安から来る幸せ探しを、優しい眼差しで暖かく見つめる映画が『サリー』だった。おりしも今年4月から「独身税」が日本でスタートする。結婚していようがいまいが、子どもを扶養していない医療保険に加入するすべての人に課せられるもので正式名称は「子ども・子育て支援金」だ。確かに国全体で子どもを育てるという考えもある。しかし子どもがいないことは罪なのか、とまで議論に及びそうなこの制度を前に、少子化が進む理由は様々であるとリンのように若い頃から親族の世話をして来た人へも思いを巡らせた。

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