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落語の名作「芝浜」もコンプライアンスに抵触!?立川志らくが危惧「与太郎もアウト?」…古典の真髄を追求

北村 泰介 北村 泰介
映画「落語家の業」上映後にトークする落語家・立川志らく=東京・渋谷のユーロスペース
映画「落語家の業」上映後にトークする落語家・立川志らく=東京・渋谷のユーロスペース

 師走の風物詩といえば「忠臣蔵」「第九」、そして落語の「芝浜」…。大みそかの夜、夫婦のやりとりが物語のクライマックスとなる人情噺(ばなし)の大ネタだが、昨今、厳しくなったコンプライアンスの観点から“ツッコミ”を入れる声も一部にあるという。落語家の立川志らく(62)が都内で12月に公開されたドキュメンタリー映画「落語家の業(ごう)」上映時にゲストとして登壇し、この「芝浜」を例に挙げて「落語とコンプライアンス」についても問題提起。さらに、当サイトの取材に対して原点である落語への思いを語った。(文中敬称略)

 志らくは落語立川流の兄弟子・二代目快楽亭ブラック(73)の生き様を描いた同作の上映後、同作の榎園喬介監督(43)を聞き手にトークショーを行った。1月に東京・渋谷と池袋、京阪神、名古屋、2月に沖縄での公開が決まっている「落語家の業」のテーマの一つが「コンプライアンス」。社会的にタブーとされている題材をネタとしてきたブラック落語と切り離せない懸案事項だが、確信犯的な新作や改作だけでなく、たとえ、本寸法の古典落語であっても、この時代にはコンプライアンスに抵触する「波」が来ていると、志らくは危惧した。

 「(間の抜けた言動で笑いを誘う落語のキャラクター)『与太郎』の話もアウトになる時代が来てますよ。『知的障害者を差別している』と…。さらに、『芝浜』ですらクレームを付けてくる人がいる。『“DV夫と嘘つき妻”の話だ』と。酒を飲んで女房を張り倒す夫はDVだし、亭主を更生させるために(大金入りの財布を拾ったことは“夢”だったと)女房は嘘をついたが、その(嘘をついた)時点でよくない。大勢の前でそんな話をするのはいかがなものかと。まだ、今のところ落語会に来られるお客さんは許してくれていますが、だんだん、(時代の風潮に)感化されて、将来、そういうお客が半分以上になると落語はできなくなりますよ」

 イベント後、改めて話を聞いた。「私はバリバリの古典落語好きな人間だった」。志らくはそう語った。日大芸術学部1年時に観客として衝撃を受けた落語家が十代目金原亭馬生だった。馬生といえば、昭和の大名人・古今亭志ん生(1973年死去、享年83)の長男にして、古今亭志ん朝(2001年死去、享年63)の兄。女優・池波志乃の父としても知られる。病を押して口演する姿に感動して弟子入りを志した矢先、馬生は食道がんのため82年9月に54歳で死去。その後、85年に立川談志(11年死去、享年75)の元に入門した。

 「昔は談志のことをそのイメージだけで嫌いで、聞きもしなかったんですけど、聞いた時に衝撃を受けたんです。本来は自分が消えて、落語が出て来るのが“いい落語”。自分の考えも、自分の個性もいらない。すべてを消して落語に委ねる。それが本来の落語。ところが、談志は『いや、全部、自分なんだ。自分を語るんだ。それが、落語が現代に生き延びる最大のやり方なんだ』という教えだったから、私もそっちの方で『全部、自分』という教育を受けて来ちゃった。元々、落語ファンとしては自分を消す方が好きなんだけど、談志イズムをよりよく受け継いでいった。それは(“表・立川流”の代表格)志の輔さんも(“裏・立川流”とも言える)ブラックさんも同じですね」

 古典を体に染みこませつつ、「自分」も語る。そのスタンスは、世間的に落語より多くの人に認知されるテレビのコメンテイター業にも通じている。だが、本業はやはり落語。志らくは今月20日に東京・よみうりホールで40周年記念のラスト公演を行い、憧れの存在だった馬生の「親子酒」と「笠碁」、師・談志の「寝床」と「芝浜」という本寸法の古典落語で、それぞれの“十八番”ネタを披露した。同会場は、談志が07年12月に残した“伝説の芝浜”が誕生した空間という縁もあった。

 一夜明けて更新した自身のX(旧ツイッター)では「芝浜=志らく!」と宣言。表面的な解釈で伝統芸能にまでコンプライアンスを問う風潮に背を向け、“全身落語家”として古典の真髄を掘り下げていく。

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