メンタルヘルスの不調は決して他人事ではない。ある日突然心が折れ、休職を余儀なくされる場合もある。休職することになった場合、初期は自責の念に駆られ、回復してくれば焦燥感に襲われることも珍しくない。
一方で、休職は「働き方のリセット」の好機となるという意見も耳にする。重要なのは、単に休むだけでなく、復職を見据えた「戦略的な過ごし方」をすることだ。再発を防ぎ、確実に職場へ戻るためのロードマップについて、社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いた。
ーそもそも「休職」とはどのような位置づけなのでしょうか
法的な観点から厳しく言えば、労働契約とは「労働を提供して対価を得る」契約です。本来、メンタル不調で働けなくなった場合、契約の本質からすれば解雇されても文句は言えません。
しかし、日本の多くの企業では就業規則により休職制度を設けています。これは、すぐに解雇権を行使せず、籍を残したまま回復を待つという、会社からの温情であり、法的には解雇の留保(猶予期間)という性質を持ちます。
つまり休職期間とは、会社が「解雇を待ってくれている期間」です。この期間満了までに労働ができる状態に戻らなければ、自然退職となるのが一般的です。まずはこの厳しい現実を理解し、期限内に確実に回復させるという意識を持つことがスタートラインになります。
ー休職初期、回復期、復職準備期における、心身のケアと過ごし方のポイントは?
まず理解すべきは、「病気の回復」と「仕事能力の回復」は別物だということです。骨折が治っても、リハビリなしですぐに全力疾走できないのと同じです。
初期は、とにかく主治医の指示に従い、投薬と休息で病気の症状を落ち着かせることに専念してください。回復期に入ったら、生活リズムを整え、散歩などで体力を戻します。
そして最も重要なのが復職準備期です。主治医が「治った(寛解)」と診断しても、それは日常生活が送れるレベルに過ぎません。会社と同じ時間に起き、スーツを着て図書館やカフェへ行き、読書や計算ドリルで集中力を養うなど、通勤とデスクワークのリハビリを自分で行い、8時間働き続けられる体力を戻すことが、再発防止の鍵となります。
一人で難しい場合はリワーク(復職支援プログラム)を活用するのも有効です。
ー会社(上司・人事)とどのようなコミュニケーションを取るべきですか?
休職中は会社との連絡を絶ちたくなるものですが、定期的な状況報告は不可欠です。会社側も、あなたがいつ、どのような状態で戻れるかが分からなければ、受け入れ体制を整えられません。「散歩ができるようになりました」「図書館で2時間過ごせました」といった回復状況を共有してください。
また、いきなりフルタイムで戻るのが不安な場合は、リハビリ出勤制度がないか相談してみましょう。給与は出ない場合もありますが、出社して座っているだけの練習期間を設けることで、スムーズな復帰につながります。
復職時の配置や業務量については、人事や上司だけで判断させず、主治医からの意見書(配慮事項)を提出し、専門家の見解に基づいた無理のない働き方を会社とすり合わせることが大切です。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市から労使の共存共栄を目指す職場づくりを支援。人材育成・定着のための就業規則整備や評価制度構築、障害者雇用、同一労働同一賃金への対応といった実務支援は、常に現場の視点に立つ。ネットニュース監修や講演にて情報発信を行う一方で、SNSでは「#ラーメン社労士」としても活動し、親しみやすい人柄で信頼を得ている。