近年、eスポーツの隆盛と共にオンラインゲームは若者だけでなく、40代、50代にとっても身近な娯楽となった。しかし匿名性の高いサイバー空間では、日常の抑制が効かず、つい感情的になってしまう者がいる。
ある男性は、仕事のストレス発散のためにプレイしたゲームで、些細なミスをきっかけに暴言を吐いてしまう。チャットに「マジでザコだな」「役立たずは死ねよ」と書き込み、執拗に罵倒を繰り返してしまったのだ。このようなゲーム内のチャットでの誹謗中傷はどこからが犯罪になるのか、まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ーゲーム内のチャットでの暴言は、罪に問われる可能性がありますか?
十分に可能性があります。ポイントは「公然性(不特定多数の人が見聞きできる状態)」があるかどうかです。ゲーム内の全体チャットやチームチャットは、他のプレイヤーも閲覧できるため、公然性が認められやすい空間です。
その上で、「あいつは前科持ちだ」といった具体的な事実を挙げて社会的評価を下げれば「名誉毀損罪」、「バカ」「ザコ」「クズ」といった抽象的な暴言で相手を貶めれば「侮辱罪」が成立します。
特に侮辱罪は2022年に厳罰化されており、軽い気持ちでの発言が重い代償を招くことになります。
ー「死ね」「殺すぞ」といった発言は、「脅迫罪」に該当しますか?
該当する可能性が高いです。脅迫罪は、相手の生命、身体、自由、名誉、財産に対して害を加えることを告知した場合に成立します。「殺すぞ」は生命への危害告知そのものですので、脅迫罪に問われる典型的な言葉です。
一方、「死ね」という言葉は、単なる願望や命令と捉えられることもありますが、執拗に繰り返すなどして相手に恐怖心を与えた場合や、前後の文脈によっては脅迫罪、あるいは強要罪等の構成要件を満たすと判断されるケースもあります。
ーゲームのキャラクター名に対する誹謗中傷でも、罪は成立するのですか?
刑法上の罪は「生身の人間」に対するものでなければなりませんが、近年の判例や実務では、そのハンドルネームが現実の誰かと紐付いていること(同定可能性)が重視されます。例えば、SNSのアカウントと同じ名前を使っていたり、リアルな友人とプレイしていたりする場合、背後にいる個人への攻撃とみなされ、罪が成立します。
また、たとえその場で個人が特定されなくても、「プロバイダ責任制限法」に基づく開示請求を行うことで、匿名のアバターの皮を剥ぎ、現実の投稿者を特定して法的責任を追及することが可能です。
ーもし、ゲーム内で誹謗中傷の被害に遭ってしまった場合、どうすればよいですか?
まずは、決して言い返さず、証拠を保全してください。感情的になって言い返すと、ご自身も罪に問われる恐れがあります。チャットのログや画面全体の日時がわかるスクリーンショットを撮り、運営会社に通報しましょう。
その上で、身の危険を感じるような脅迫や、執拗な誹謗中傷を受けた場合は、警察署のサイバー犯罪相談窓口や弁護士に相談することをお勧めします。「たかがゲームの喧嘩」と放置せず、毅然とした対応を取ることが重要です。
●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。