アルコールを口にすると、つい気持ちが大きくなって普段であれば言わないことを言ってしまうこともあるだろう。上司に対して、その場の空気が凍りつくような暴言を吐いてしまった人もいるのではないだろうか。では、酒席での失態は、一体どこまで許されるのだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー酔った上での暴言、法的な問題になる可能性は?
酔った上での上司への暴言や悪口が、ただちに名誉毀損罪や侮辱罪といった刑事罰に問われる可能性は低いと考えます。ただし、発言の内容が会社の社会的評価を低下させるような内容であったり、社内の秩序や士気を著しく乱したりする場合には、法的な問題に発展する余地があります。
例えば、取引先など社外の人間がいる場で会社の機密情報を漏洩したり、事実無根の話で会社の名誉を毀損したりした場合は、大きな問題になる可能性があります。
ー会社は懲戒処分を下せるのでしょうか
多くの会社の就業規則には、「素行不良で社内の秩序を乱したとき」といった内容が懲戒事由として定められているはずです。酒席であっても、職務との関連性が認められれば、そこでの言動は懲戒処分の対象となりえます。
もちろん、処分の重さは暴言の内容や状況、本人の反省の度合いなどを考慮して判断されます。一度の過ちで即解雇といった極端な処分が下される可能性は低いものの、減給や降格は考えられます。
ー「酔っていたから覚えていない」という言い訳は通用しますか
翌日になって「酔っていて覚えていない」と弁解しても、通用することはほとんどないでしょう。笑って済まされるレベルの内容であればまだしも、懲戒処分の対象となるレベルであれば、許してもらえる可能性は低いです。
自らの意思で飲酒し泥酔したわけなので、生じた言動に対する責任は免れないでしょう。
ー酔った部下の暴言にどう対応すべきでしょうか
感情的にならずに、冷静に対応してください。その場で叱責しても、相手は酔っぱらっていてまともに聞き入れないでしょう。むしろ、さらなるトラブルに発展しかねません。
後日、当事者と話す場を設けて、事実確認を行い再発防止を促すことが大切です。組織の秩序を維持するためにも、毅然とした態度で臨まなければなりません。
近年では、酔った上での暴言や迷惑行為は、「アルコールハラスメント(アルハラ)」に該当し得るという認識も広まってきています。「酔っていれば無礼講」といった考えは、通用しなくなってきている点も伝えるといいでしょう。
個々人が自らの酒量をわきまえ、節度ある飲酒を心がけることは当然ながら、組織全体として、アルコールとの付き合い方をアップデートしていく必要があるでしょう。
●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。