妻の骨折を機に夫が家事や育児をおこなう場合、大変な労力となることは想像に難くない。そんななか、妻の骨折が完治した後も、一向に家事を再開してくれない場合がある。それどころか「まだ腕が痛い」「重いものを持つのが怖い」と言いながら、日中は友人とランチに出かけたり、テレビを見て過ごしたりしている始末だ。
夫からすれば、「一生懸命手伝ったのに」という思いと、「ただの怠慢ではないか」という疑念が湧き上がるのも無理はない。では、なぜ妻は家事復帰をためらうのだろうか。夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を聞いた。
ーケガの完治後も、家事への復帰をためらうのはなぜでしょうか
まず、夫からの「怪我の治癒おめでとう」「今まで大変だったね」といったねぎらいの言葉や感謝が不足している可能性があります。夫が家事を代行したことを「一時的なピンチヒッター」と捉え、妻の苦労を顧みず、完治と同時に「家事は元通り」と丸投げされることへの抵抗や不安があるのでしょう。
夫にも家事能力があることが分かった今、「また全部私がやらなければいけないの?」という不満が、家事復帰をためらわせる心理的ブレーキとなっています。妻が本当に求めているのは、家事という行動ではなく、夫からの心からの感謝と共感なのです。
ー夫側が、「ただの怠慢だ」と決めつけてしまうことのリスクはありますか
夫が「ただの怠慢だ」と決めつけてしまうと、妻の「SOS」を見逃してしまいかねません。妻が「まだ腕が痛む」と言い、日中ランチやテレビを見て過ごしているという目の前の現象や態度だけに注目すると、妻が心の底で抱える不満や、夫からの感謝を求めているという真の要求に目を向けられなくなります。
妻の言動は、夫に「私の辛さを分かってほしい」と訴える不機嫌という形のハラスメントや暴力である可能性もあります。安易な決めつけは、妻の心をさらに閉ざし、夫婦間の溝を決定的に深めてしまいます。
ー妻に対してどのように気持ちを伝え、話し合いを始めるべきですか?
まずは、怪我の療養期間中に家事・育児を担ってくれていたことへの心からの感謝を、労いの言葉とともに伝えてください。夫が家事を代行した経験から、「お前がこれをずっとやってくれていたのか。大変さがわかったよ」といった共感を示すことも重要です。
その上で、目先の家事分担の再開について話すのではなく、「俺は今後、君とどんな夫婦生活を送りたいのだろうか」という長期的な未来に目を向けてください。そして、そのために自分が何をすべきか、妻は何を望んでいるのかをしっかり聞きましょう。安易にモノで解決しようとするご機嫌取りは逆効果になる場合があります。
ーケガをする以前からの家事分担への不満が隠れている可能性はありますか?
その可能性は非常に高いでしょう。もし、夫婦関係に不満がなければ、怪我の完治後すぐに家事に戻るはずだからです。妻の家事への復帰をためらう行動は、夫が妻の家事・育児を感謝もなく「当たり前」のこととして捉え、労いのコミュニケーションを怠ってきた結果、妻の不満が蓄積し溢れ出たものと考えられます。
「感謝の反対は当たり前」と言いますが、この「当たり前」の認識こそが、夫婦の間に大きな溝を生んだ原因です。妻は怪我のサポートをきっかけに、「私の苦労をあなたも味わいなさい」という、仕返し的な意味合いで家事復帰を拒否している可能性もあります。
◆木下雅子(きのした・まさこ)行政書士、心理カウンセラー。
大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、お客様を支えている。