高市早苗首相が今月6日の参院代表質問で女性の健康課題への対応を問われた際、「私自身も更年期の時に大変、しんどい思いをした」と打ち明ける場面があった。国会で64歳の首相が過去の切実な体験として取り上げた「更年期症状」がクローズアップされた中、22日から東京・新宿K’s cinemaを皮切りに全国順次公開される新作映画「道草キッチン」では主人公の50歳女性が更年期と向き合う姿が描かれている。その役を演じた俳優・歌手で作家の中江有里に話を聞いた。
中江にとって1998年に公開された大林宣彦監督の「風の歌が聴きたい」以来、27年ぶりの主演映画となる。
「その時は20代前半でした。今回、自分に〝50歳主演の役〟が来るなんて夢にも思わなかったですね。私は今年(12月)で52歳になりますけど、昨年の撮影時はちょうど役と同じ50歳。〝50代独身女性が主役の映画〟とはどんな映画か?同じ年代の人たちが自分と重ね合わせて観られる映画って、今の日本ではものすごく少ないと思います。なおかつ、今作のタッチは静かで、過剰なところがなく、自然の中で流れるように語られていく。その中で、今まで縁のなかった場所で縁を築き、新たな生き方というか、自分なりの幸せを見つけていくという、ささやかで繊細な映画だなと思いますね。大冒険でもないけど、〝小冒険〟が重なっていくことによって自分が変わっていく姿が描かれています」
今作で中江演じる主人公・桂木立(りつ)は都会で小さな喫茶店を営んでいたが、再開発の影響などで閉店。家族や親戚もなく、更年期で体調面に不安を抱えていた時、面識のないおじの妻であるベトナム人女性が亡くなった徳島県吉野川市から相続通知が届く。立は現地に移住し、地元住民と世代や国籍を超えて触れ合い、〝おばさん〟が遺したレシピを元にベトナム料理を作ることに生きがいを見い出す。
「都会で仕事を失い、頼れる親族もなく、体の不安を抱えた主人公が生活基盤を変えて緑豊かな土地で生き直していく。『更年期』を正面から捉えた作品です。一昔前はあまり更年期のことって語られなかったと思うんですよね。今はわりと普通にそのことを口に出せるようになったというか。更年期症状とは、病気ではなく、年齢による不調…ということになりますけど、私自身も更年期で、日々体調が違ってコントロールのしようがないこともあります。しかし、これもまた自然の流れの中にあるもの。撮影中は体調をすごく気にして、ご迷惑かけないように、なんとか自分をなだめながら乗り切れました」
自身は更年期を克服する〝拠り所〟の一つとして「野球観戦」を挙げた。
「人間はいつも好調ではない。不調なりにどう乗り切っていくかということを、私はいつも野球と重ね合わせています。打てない時にどう守るか…と。打つのに波はあるが、守ることには波がない。昨年10月の撮影中、空き時間にセ・リーグのCSファーストステージの試合をアプリで観ていました。その時は阪神がDeNAにストレート負けして残念でしたが、原口選手のホームランだけが慰めになりました(笑)」
中江には歌手という顔もある。今回、初めて作詞にトライした曲「それぞれの地図」が同作の挿入歌となった。MISIAの「Everything」などのヒット曲を手がけた作曲家・松本俊明と「文学と音楽の融合」をテーマに結成したユニット「スピン」の作品だ。松本が演奏するピアノと共に、中江は自身が紡いだ言葉を噛みしめながら歌い上げる。
元々は、「卒業」をイメージして歌詞を書いたという。
「卒業って、それまで一緒にいた人たちがそれぞれの道に旅立って行くというタイミングですけど、道はバラバラでも、みんな同じ空の下にいる…ということを伝えたい。不安と希望の両方が入り交じる中、それを明るい未来として歌いたいと。〝曲先〟でしたが、松本さんの曲は歌詞が浮かんでくるメロディーなんです。サビの『人は誰も一人きり、それぞれの地図描く』など、松本さんの曲に書かせていただいたと思っています」
今夏、ベトナムで開催された『ダナンアジア映画祭』で一足早く上映された。中江は「現地に招待していただきました。反応も良く、『ベトナムでもやって欲しい』と言われたのはうれしい出来事でした」と手応えをつかむ。出身地の大阪では12月13日から公開される。