昨年10月1日に就任した石破茂首相は、4日投開票の自民党総裁選で後任が選ばれた時点で同党総裁の座から降り、今月半ばの召集が見込まれる臨時国会で次期首相が選出されることによって1年余りの首相としての任期を終える。石破氏と交流のあるジャーナリストの深月ユリア氏が、退陣直前の本人から届いた「ポピュリズム」(※大衆の感情や不満に訴えて支持を得る政治的な姿勢)に関する質問の回答内容を紹介する。
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石破首相は9月7日に首相官邸で辞任に関する記者会見を開き、筆者も参加した。2022年から石破氏を複数回取材してきた筆者からみれば、同氏は冷静で論理的ながらも、純粋で正直で、ときおり感情が顔に出る人だが、会見でも自著「保守政治家 わが政策、わが天命」(講談社)に記した「もし私が首相になることがあるなら、自民党や日本が大きく行き詰まったときではないか。天命が降りない限りあり得ないだろう」という思いのために心身をすり減らしてきた末の悔しさをこらえているようにも見えた。それは、会見での「(総理の仕事は)不眠不休に土日を返上で当然のこと」「地元(鳥取県)へ帰ることは1回しかできませんでした」という言葉にも表れた。
首相官邸前では「石破やめるな」デモが複数回行われ、トランプ米大統領との相互関税交渉をはじめとする外交政策や森友文書公開が評価され、支持率も上昇傾向にあった。石破氏の支持層からは「辞任するのではなく、解散総選挙をやればいい」という声も上がっていた。それにも関わらず、辞任の一因として、石破氏は「(自民党が分裂したら)日本は安易なポピュリズムに陥る」との危惧を先述の会見で示し、分裂より党内融和を重んじる姿勢を明らかにした。
筆者は会見後に「安易なポピュリズムとは何か」と石破氏サイドに文書で質問し、同30日に次のような回答を得た。
石破氏は自民党のあるべき理想の姿を「寛容と包摂を旨とする保守政党」とした上で、「そうあるべき自民党が信頼を失い、この国の将来に責任を持たず、有権者にとって耳障りが良い政策を訴え、耳目を集める主張をすればよいという風潮になるようでは、安易なポピュリズムになってしまうのではないかと考えます」と今夏の参院選以降の社会風潮を踏まえながら指摘した。
ここで挙げられた「耳障りの良い政策」といえば、参院選で「日本人ファースト」という言葉が流布し、一部では「外国人差別」を助長したり、どの党も明確な財源に関する説明が不十分なまま「減税合戦」に終始していたことが記憶に新しい。
石破氏は今回の回答の中で改めて「自民党は、今さえよければよい、自分さえよければよいという政党であっては決してなりません。寛容と包摂を旨とする保守政党であり、真の国民政党であらねばなりません」と定義した。同氏が信じるキリスト教の利他主義(※自己の利益よりも他者の利益や幸福を思って行動すること)らしい考え方だ。
解散総選挙を行えば、自民党が分断するリスクがあると判断したようだ。石破氏は「自民党の決定的な分断を避け、『解党的出直し』の上で、自民党が真の国民政党として国民の信頼を得る政党であり続けることを願って退任の決断をしたものであり」と説明し、「その意を汲んで総裁選が行われ、次の総裁が指導力を発揮することを期待します」と、後継に責任を託した。
石破元首相はこれまで「聞く力」を自らの政治姿勢として掲げ、筆者が主催した外交・防衛・社会問題をテーマとするシンポジウムに出演した際にも、参加者ひとりひとりと名刺交換や握手をした。しかし、その姿勢はしばしば党内の権力構造と衝突し、実現したい政策を進められなかったため「指導力がないのでは」と批判されることもあった。
次の総裁には党を団結させる「指導力」が求められるということだが、融和と団結を重んじるあまり、みなが同じ方向を向くことが常態化すれば、本来の民主主義の姿から外れるリスクも危惧される。「安易なポピュリズム」に依拠する風潮が国内外で広がる中、日本の未来への危機感がある。次期首相が石破氏の思いをどう受け止めるかが問われることになるであろう。