映像作家の芹沢洋一郎さんが20日に亡くなった事を、27日に妻がSNSで報告した。報告文には妻が芹沢さんさんから預かっていたという文章も掲載。その文章があまりにも生き生きとして胸を打つと評判になり、29日現在で13万いいねとなっている。
「突然のご報告で申し訳ありません。芹沢洋一郎の妻です。洋一郎は9月20日の朝4時20分に永眠いたしました」の書き出しで、訃報を伝えると、最後に「本人から預かっていたメッセージです。よければご一読くださいませ」と芹沢さんからのメッセージを伝えた。
芹沢さんは「SNSで繋がっているみなさまへ」のタイトルで、「芹沢洋一郎です。上記妻からの報告にもありますように、私この度亡くなりました。自分でこのような報告をするというのも奇妙なものですが、私のわがままでお見舞いや葬儀をお断りしたこともあり、ここに私自身の言葉で報告させて頂きます」とつづった。
芹沢さんは1963年生まれ。1980年代末から、多数の実験的な作品を制作、国内外で高い評価を得た。処女作『まじかよ?』(1980年)がPFF81に入選。流血映画を撮り続けたのち、ブレッソンと奥山順市から主題と手法の一致を学び作風を転向。『間男』(89年)がIFF90に、『殺人キャメラ』(96年)がサンフランシスコ映画祭入賞。2016年に20年ぶりの新作「サヴァイヴァル5+3」を発表しFF2017観客賞受賞した。
芹沢さんは2024年末に、20万人に1人もいないという、小腸の空腸がんが発覚。標準治療も薬もない状況ながらも、新薬の治験を受けてきた。今年7月に3度目の腸閉塞を起こし、「余命2ヶ月」を宣告をされたという。
また両親や親しい人たちの葬儀で、故人の顔を見るたび「この人は私の知っているあの人では無い」と感じたことから、「死顔を久しぶりの方に観られるのが妙に気恥ずかしく、家族のみの葬儀とさせていただきました」と家族葬にした理由も明かした。
さらに「圧倒的に面白いことの多い人生でした」と振り返り「皆様にも心からの感謝をしております。本当にありがとうございました」と感謝。「というわけでひと足先に失礼しますが『夢の記憶が無い眠りと死は、一体何が違うのか?全くおなじじゃないだろうか?』と以前からずっと感じていましたので、こうご挨拶させてください」と吐露し、「お先に、おやすみなさい」と締めた。
この文章に「訃報に『いいね!』したくないが、あまりに清々しい“最期のご挨拶”でつい押してしまいました」「最後までかっこいい生き方の教科書」「優しくて静謐なセンテンス」「肝の据わったかっこいい逝き方と生き方を見せてもらった」「死の間際にこんな美しい文章を残せる人素敵だな」「お先におやすみなさいって、なんか救われる言葉です」「こんなに生き生きとしたお別れの挨拶を初めて読みました」といったコメントが並んだ。
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芹沢さんのメッセージ全文
SNSで繋がっているみなさまへ。
芹沢洋一郎です。
上記妻からの報告にもありますように、私この度亡くなりました。
自分でこのような報告をするというのも奇妙なものですが、私のわがままでお見舞いや葬儀をお断りしたこともあり、ここに私自身の言葉で報告させて頂きます。
2024年末に小腸の空腸癌が発覚し、これが20万人に1人も居ないとても珍しい希少癌だったため、標準治療も薬も無いような状況でした。それでも何とか方法を探り新薬の治験などにも臨みながら、諦めることなく治療を続けて参りましたが、今年の7月末に3度目の腸閉塞を起こし「余命2ヶ月」を宣告されました。
覚悟していたことではありましたが、まず頭に浮かんだのは試してみたかったけど先延ばしにしていた映像技法の幾つか。人によっては「はあ?」と呆れるような無意味で些細な事ですが、残された2ヶ月間はそれに集中しようと決めました。なので皆様にも病状をお知らせすることなく、お見舞いもお断りして、家族や友人に「最後のお願い!」を口実に沢山無茶を言って振り回しながら、作業に集中させてもらいました。やってみると制作過程の紆余曲折に一喜一憂するいつもの自分がおり、病気の現実も余命の事も見事に忘れてしまうほど熱中し、いつもの映画仲間達と濃密な時間をギリギリまで過ごす事が出来ました。
特に昼間行雄さん、関浩司さんには心から感謝いたします。
また、以前から両親を含めて親しかった人の葬儀に出席し故人の顔を見るたびに「この人は私の知ってるあの人では無い」と強く感じる事が多く、それもあって死顔を久しぶりの方に見られるのが妙に気恥ずかしく、家族のみの葬儀とさせていただきました。
以上、沢山の勝手を申しまして大変申し訳ございません!私の最後のわがままとして何卒ご理解下さい。
生前はいろいろお世話になり、また大変不義理もしましたが、圧倒的に面白いことの多い人生でした。だから皆様にも心から感謝しております。本当にありがとうございました。
というわけでひと足先に失礼しますが「夢の記憶が無い眠りと死は、一体何が違うのか?全く同じじゃないだろうか?」と以前からずっと感じていましたので、こうご挨拶させてください。
お先に、おやすみなさい。
芹沢洋一郎