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映画から社会問題に切り込む今年の大作「宝島」現代にもつながる理不尽を浮き彫りにするエネルギー

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「宝島」のワンシーン©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会
「宝島」のワンシーン©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会

 「国宝」に続く今年の話題作と早くも噂される「宝島」。監督は「るろうに剣心」シリーズや「レジェンド&バタフライ」を手掛けた大友啓史、主演は妻夫木聡だ。2人は前から全国宣伝キャラバンを行い、各地で行われる「宝島」試写会の舞台挨拶に立って観客に思いを伝え続けている。これは映画にしては珍しい試みなのだが、何故、彼らはそこまでしているのか。

 紐解いてみると、五十嵐真志プロデューサーと大友監督が真藤順丈氏の直木賞受賞作「宝島」と2018年に出会い、絶対に映画化するという思いで企画構想に6年も費やし、やっとの思いで映画化に漕ぎつけた作品だ。更に妻夫木は、コザが舞台の映画「涙そうそう」に出演してから沖縄へ特別な思いを抱いている。それだけ思いの強い彼らが本作を通して届けたい思いとはなんなのか。

 映画を見るとひとつの答えが見えてきた。それはもしかすると「第二次世界大戦が終わっても、沖縄の人々が米軍基地に奪われた土地問題は今も続いている」ということなのかもしれない。

 映画は、米軍基地に物資を奪いに入り込んだ沖縄の「戦果アギヤー」と言われる、永山瑛太扮するリーダー率いる若者達が、米軍に追われるカーチェイスシーンから始まる。物語の時代設定は1952年なので、沖縄はアメリカ統治下だ。思えば、戦争が終結しても日本で唯一、地上戦が行われた沖縄は返還されず、1972年の沖縄本土復帰まで米軍が占領していた。ではその間、どんな問題が起こっていたのか。

 映画では妻夫木演じる主人公が刑事となって、沖縄で繰り返される性的暴行事件を追い、アメリカの法の下で守られる卑劣な加害者に果敢に立ち向かっていく姿が綴られていく。これはアメリカの沖縄返還後、尚も続く性的暴行事件にも繋がる社会問題だ。それだけでなく、1970年に起きた約5000人の群衆が起こしたコザ暴動も、多数のエキストラと共に大迫力のシーンとなってスクリーンに焼き付けられている。

 映画はこのような事実を描きながら、その時代に青春を奪われた若者達の姿もしっかりと映し出していく。貧しい生活の中で様々な物を奪われた若者の怒りは人生を変えてしまうことになり、ある者は暴力の道へと進み、ある者はデモ活動に参加するようになる。そんな若者達を窪田正孝、広瀬すずという主演クラスの俳優陣が演じている点を考えると、本作がより多くの観客に届けたい作品として制作されていることが伺える。

 絶対的な権力である国家に若者達だけで立ち向かう本作から浮き彫りになってくるのは、国の運命を決める政治家が戦争を行うと声明を出せば、多くの民間人が犠牲になってしまうという事実であり、権力によりねじ伏せられてしまう事実も存在するということだった。そしてこの問題は世界各国で今も起こっている理不尽なヒエラルキーと同じだ。それらを大作として包み隠さず真正面から描いたのが、映画「宝島」だった。

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