昨年10月に宝塚歌劇団を退団、今春に慶応義塾大学環境情報学部に入学した元雪組の娘役・ ️有栖妃華がこのほど、よろず~ニュースの取材に応じ、女優と大学生としての二足のわらじへの思いを語った。
有栖は2014年、日本女子大学附属高校から26.7倍の狭き門をくぐり、宝塚音楽学校に入学。16年に宝塚歌劇団に入団後、雪組に配属された。その美声は早くから後は歌姫として活躍。宝塚屈指の歌姫として舞台のフィナーレの最後のパレードの始まりを告げるように始めに登場し、見事な歌声を披露するエトワールを何度も務めた。先日行われた大阪・関西万博でのOGによるスペシャルステージ「未来へのOne Step!」(東京国際フォーラム、梅田芸術劇場でも開催)では、そうそうたるメンバーの中で、オープニングでソロを務めるたほど。現在は舞台を中心に活躍している。
大学の付属校に通っていたことから、幼い頃から「将来的には大学に行くつもり」だった。宝塚に入っても、退団後の大学進学を念頭に、英語の勉強は続けていた。コツコツと学ぶことは好きで、コロナで舞台が休止になったときにも「音楽療法カウンセラー」や「メンタル心理ミュージックアドバイザー」の資格を取った。「もともと、歌も分析するタイプなんです。どう発声すれば、どのように聞こえるかというのを考えてお稽古していました」と振り返る。
宝塚音楽学校は中学卒業から高校卒業まで受験資格があり、中卒や高校中退で入学する生徒も多いため、在学中に高校の単位を取得できる制度を設けている。退団後は芸能活動だけでなく大学に進学する人もいる。だが有栖は、OGに多いオペラなどを専門的に学ぶ音楽大学の声楽科ではなく、慶応を受験した。「音楽教育や脳科学的に音楽の研究をやりたかったんです。慶応だからというのではなく、やりたいことがあったのが慶応の環境情報学部でした」と笑顔を見せる。
音楽を科学的に分析し、「脳や喉と発声のつながり、認知を研究」することに興味があった。入学後は“やりたいこと”に関する授業を積極的に取っている。「私は絶対音感じゃなく、相対音感なんです。絶対音感の人は『なぜ音を外すのかわからない』と言いますが、相対音感の私には外す理由がわかる。その一方で、『なんでここを外すんだろう?』と絶対音感の人の気持ちがわかる部分もある。両方がわかる部分がある私は、研究に役立つと思うんです」と語る。
「例えば音痴の人がなぜ音を取れないか…いまは頭ごなしに『やればできる』的な精神論で、『なぜなのか』という科学的にアプローチする部分が欠けている。ですから研究が進めば、音痴がなくなるのではと思うんです」という。「それには私のように音が取れる人と、取れない人の両方の気持ちが分かる人間が、パイプになれれば」と自身の立ち位置を見つめる。
今春入学し、同級生とは年も離れているが「クラスメートは私が元タカラジェンヌと知っていますが、普通にランチしたり、一緒に勉強したりしています。サークルにも4つ所属して、大学生活を満喫しています」と笑う。大学の授業と女優業と両立させるために授業カリキュラムも組んだ。「東京以外でのお仕事があるときはお休みしますが、基本的に毎日学校に通っています」と真面目な大学生の顔をのぞかせる。舞台の仕事も「実際に勉強したことを生かせると思うんです」とフィードバックの場としての役割も。「どの授業もやりたいことだらけ!舞台のお仕事も、大学も全て本気の趣味なんです。人生でいまが一番楽しい」と大きな瞳を輝かせる。
好きな言葉は作曲家シューマンの『人間の心の奥底へ光を送ること これが芸術家の使命である』。まさにこの言葉どおり、大学で学んだことを舞台で観客に届ける…有栖妃華の第二楽章は始まったばかりだ。
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有栖妃華(ありす・ひめか)
7月4日生まれ。東京都世田谷区出身。日本女子大学附属高等学校出身。2014年、宝塚音楽学校合格の102期生。早くからその歌唱力が認められ、歌姫として注目される。大劇場公演で2度、全国ツアーなどで3度のエトワールを務める。24年10月「ベルサイユのばら」で退団。25年4月慶応義塾大学環境情報学部に入学。身長162cm。愛称「ありす」「ぴら」「ありすひめ」