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カンヌ国際映画祭で語られる映画関税と国際共同製作 トランプ大統領発言の影響

伊藤 さとり 伊藤 さとり
カンヌ国際映画祭の審査員
カンヌ国際映画祭の審査員

 「第78回カンヌ国際映画祭」は、フランス人女優、ジュリエット・ビノシュを審査委員長に迎え、5月13日に華々しく開幕した。今年は日本勢が強く、早川千絵監督の「ルノワール」(6月20日公開)がコンペティション部門に選出するなど7作の新作と2作のクラシック映画が上映された。また時折、米トランプ大統領の名前が上がったのも今年の特徴だった。先日、トランプ氏が米国内で撮影可能な海外製作の米映画に関税をかけると発言したのがことの発端だ。

 カンヌ国際映画祭のオープニングセレモニーでは、レオナルド・ディカプリオに呼ばれて登壇した本年度名誉賞受賞の米俳優ロバート・デニーロが、スピーチの中でトランプ氏を「ファシスト」と強く批判。他にもコンペティション部門に選出されたウェス・アンダーソン監督もトランプ氏の映画関税について皮肉を述べた。

 これは海外映画祭だからこそ伝えるべきテーマだったのではないだろうか。当日、会場でその姿を見つめていた身としても、米国の映画界では深刻な問題になっているのが分かる。現状、トランプ氏が述べているのは、米国を舞台にした作品であるにもかかわらず、カナダをはじめ他国で製作される米映画に対しての関税だ。

 事実、米国は物価も高く、主要都市でロケーション撮影を行うと人件費など制作費が膨らむ。そういった点から米国の製作会社がコストを抑えて映画を作る為に、ロケ誘致での金銭的なインセンティブなどがある海外でシカゴの風景を撮る、といったことも当たり前になっているからだ。現在、配信などの影響により、世界的に映画界は不況に陥っている。それは各国共通の問題で、大衆が好むブロックバスター系映画には投資するが、今やアート系映画は一国だけの製作費ではまかなえず、海外との共同製作が増えている。

 日本映画で言えば、カンヌ国際映画祭に選出された「ルノワール」も、日本、フランス、フィリピン、インドネシア、シンガポールによる共同製作だ。才能ある監督だろうと、新人監督によるオリジナル脚本では予算を回収出来ないのではと懸念されてしまう。しかし、彼らの才能を見抜いた海外の映画人は、良質な映画の誕生に賭けて出資に乗り出してくれる。早川監督は三度目のカンヌ国際映画祭選出。ついにメインとなるコンペティション部門に選出となった。カンヌ国際映画祭は人を育て人と人を繋ぐ場所だ。まさに海外共同製作のきっかけも生む場のひとつが「カンヌ国際映画祭」でもあるのだ。

 今や映画製作は、一国だけで成り立つものではない。もし米国で映画関税が実施となれば、米映画は製作費が膨大な作品か、国内で予算を最小限に抑えたインディーズ作品という極端なものしか作られなくなる可能性も大いにある。

 映画に関税をかけるということは、海外との文化交流を制限するということになる。カンヌ国際映画祭という上映と海外とのマーケットが同時開催する巨大映画祭で、デニーロが発言した意味というのは、「映画は商品ではなく文化芸術であり、規制されるべきではない」という意図からだった。

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