歌手・いしだあゆみさん(享年76)の訃報を受け、1968(昭和43)年リリースの代表曲「ブルー・ライト・ヨコハマ」が令和のメディアで繰り返し流された。同曲をはじめ、「横浜」をテーマにした歌は数多い。その港町を舞台に、多才なミュージシャンが集結する音楽イベント「オトナの歌謡曲 ソングブックコンサート in YOKOHAMA」が6月7日に「横浜市開港記念会館 講堂」で開催される。構成と司会を担当する〝オトナの歌謡曲プロデューサー〟佐藤利明氏に話を聞いた。
終戦直後の「港が見える丘」から、現在では一般的に〝昭和歌謡〟のイメージが強い同40年代の「ブルー・ライト~」「伊勢佐木町ブルース」「よこはま・たそがれ」「本牧メルヘン」など、同50年代のポップス系でも中華街が登場する「北京ダック」や馬車道が描かれる「恋人も濡れる街角」など〝横浜の歌〟は枚挙にいとまがない。
「ジャックの塔」の愛称で知られる今回の会場は1917年に建てられ、国の重要文化財に指定されている歴史的建造物。浜田真理子with Marino(サックス)、畠山美由紀with 高木大丈夫(ギター)、奇妙礼太郎with 近藤康平(ライブペインティング)が出演し、佐藤氏と共に司会を担当する歌手で芸人、歌謡曲研究家のタブレット純も歌を披露する。
佐藤氏は「いしだあゆみさんの『ブルー・ライト・ヨコハマ』、ゴールデンカップスや青江美奈さん、そして石原裕次郎さんの『サヨナラ横浜』など『ヨコハマ』をテーマにした歌謡曲の数々は『横浜』という歴史ある港町を特別な場所にしてくれました。それはサザンオールスターズやクレイジーケンバンドも然りです」と指摘する。
その上で、佐藤氏は「昭和の歌謡曲の魅力を21世紀に伝え、残していきたいと立ち上げた『オトナの歌謡曲プロジェクト』の集大成として様々なアーティストたちに参加していただいて開催するのが今回のコンサートです。横浜の歴史的建造物で、時空を超えて、改めて、昭和の歌謡曲の魅力をお客様に体感していただけると思います」と呼び掛けた。
出演者について、同氏は「浜田真理子さんとは長年のお付き合いです。小泉今日子さんとの音楽劇『マイラストソング』では、2020年から僕が構成を務めさせていただきました。彼女の美しいピアノ、澄んだ歌声で、昭和の歌謡曲に新たな生命が吹き込まれ、多くの人々を魅了し続けています。畠山美由紀さんの歌声は、僕たちの心の扉をノックしてくれるというか、琴線に触れる情緒があります。奇妙礼太郎さんも長いキャリアを持つアーティストで、菅田将暉さん、ヒコロヒーさんをゲストに迎えた25周年記念アルバム『奇妙礼太郎』(23年)は名盤です」と解説した。
また、相方のタブレットについては「横浜をテーマにした歌謡曲のトリビアトークなども出てくると思います。〝タブ純〟とは現在、配信番組『佐藤利明・タブレット純 昭和の歌謡百貨店』(楽天Rチャンネル)でもご一緒しているので、リラックスしたMCトークになると思います」と付け加えた。
佐藤氏は昨年10月、東京から秋田県にかほ市象潟町に移住した。
「(移住先は)松尾芭蕉が『奥の細道』で最後に訪れた景勝地です。鳥海山の麓、日本海に沈む美しい夕陽を眺めながら日々を過ごしています。家内がこの町の出身で、時折、訪れていましたが、昨年夏に、改めて美しい自然に触れて『終の住処』にしたいと移住を決意しました。僕は、東京生まれの東京育ち。銀座の泰明小学校出身の街っ子です。61年間、一度も東京を離れたことがなかったのですが、映画や音楽についての論考や著述を続けていくには、ちょうど良い環境だと思いました」
移住後も、東京・神保町の「ネオ書房/20世紀ブックカフェ」で毎月開催しているトークライブ「佐藤利明の娯楽映画研究所S P 娯楽映画の昭和」などの仕事を継続。自然豊かな生活拠点と首都圏の現場を往復する日々が続く。
「東京と秋田は、距離は相当離れていますが、それゆえに見えてくることもたくさんあります。たとえば、横浜という街の魅力や、昭和という文化、歌謡曲、人々の暮らしががもたらしたものを、客観的に捉え直すことができて、新たな発見も日々あります」
「秋田発、横浜行き」。新たな視点で、その世界観を個性豊かなアーティストたちと共に〝もう一つの主役〟である「ジャックの塔」でお披露目する。