高齢化社会で働くシニア世代が職場で親子ほど年齢の離れた若い上司と接することも少なくない。年長者のプライドが傷つけられることもありがちだが、50代後半から会社勤めを始めた芸人・三又又三はその実体験をネタに昇華し、同じ境遇にある中高年層を後押しするような漫談を舞台で披露している。(文中一部敬称略)
1992年に山崎まさやとのコンビ「ジョーダンズ」を結成し、TBS系ドラマ「3年B組金八先生」で武田鉄矢が演じた中学教師・坂本金八のモノマネでブレーク。3月3日に「三又又三の日」と題し、浅草フランス座演芸場東洋館で水道橋博士が企画したイベントの主役を張った三又は、ゲストの大久保佳代子を交えた3人のフリートークで当時を振り返った。
全盛期は景気もよかった。車の免許を持たずに外車を2台所有し、「晴れの日はジャガー、雨の日はシボレー。運転するのは当時付き合っていた〝車好きの彼女〟。僕が32-33歳でした」。仕事でヘリコプター移動したことも。都内の一等地・南麻布に住み、早朝に公園で大型犬を散歩させる大物ロックミュージシャンとの遭遇話も披露した。
だが、芸能界は浮き沈みの激しい世界。低迷もしたが、〝本家〟の武田をはじめ、ビートたけしら大御所に気に入られる〝何か〟があった。
松本人志とは「年に300日は一緒にいた」という蜜月時代もあり、旅行先の北海道で「なぜ自分は売れないのか」という悩みを相談し、「人生における〝ある遍歴〟」を告白する形でカウンセリングしてもらったという。さらに、中居正広氏を交えた3人で、東京・六本木で朝まで酒を酌み交わしたことも。「松本さんがトイレに行くたびに、中居さんが『三又さんと一緒にいる時の松本さんはよく笑うし、僕もすごく楽しい』とはしゃいでおられた」。親密になったと思い、飲み会後のタクシー待ちで2人きりになった中居氏に携帯電話の番号を聞くと、無言のまま独特のポーズで断られるというオチもあった。
そんな華やかな世界にいた三又だったが、2023年から千葉県内の不動産会社に就職。たけし軍団のメンバーが立ち上げた事務所「TAP」に所属しながら、企画開発部の営業マンとして働いている。
「1年半くらいになります。芸能人にありがちなノリではなく、ネクタイして、ちゃんと朝から出勤して窓を拭いて…。生まれて初めてパソコンを開いたんで、みんながデスクでシャカシャカやってる中、俺だけ人差し指で触っていたら、上司が『Enter(キーボードのエンターキー)押して。押さないと次に行けないから』と。俺は今57歳。もうすぐ(5月で)58歳になるんですけど、その上司は30も年下なんですよ。28歳のいい子なんだけど、俺がモタモタしてたら『Enter!Enter!』って言いながら、最終的に鉄製のメジャーでピシッと俺を叩くんです。『だって俺、初めてですもん』と言っても、『Enter!Enter!』ピシッ!」
水道橋博士に「その上司のことをどう思ってるの?」と聞かれると、三又は「30歳下の上司は俺に対して完全にタメ口なんですよ。それで、考え方のスイッチを変えました。『この子はできのいい息子だ。俺はできの悪いお父さんだ』。そう自分に言い聞かせることで仲良くやってます」と打ち明けた。
イベント終盤、水道橋博士が独身同士の三又と大久保に「結婚を前提とした〝清いところ〟から話し合ってみては?」と提案した。微妙な空気の後、三又は「大久保さん、九十九里にいい物件があるんですよ」と仕事の顔に戻り、大久保から「金目当てじゃん!営業成績上げたいんでしょ」とツッコまれ、「は…はい。でも、損はさせません」と返して場内爆笑。最後は黒パンツ一丁になって往年の「三又ダンス」で盛り上げた。
会場は立ち見も出る盛況で、客席にはラサール石井や松本一人の姿も。終演後、三又は楽屋で当サイトに「芸人との二刀流でやっていきます」と改めて宣言した。
勤務先ホームページの「スタッフ紹介」で、三又は「担当したお客様の笑い声を聞きたくて、一生懸命、謙虚に、そして感謝の気持ちを忘れずに精進致します。また、僕と笑いと隣り合わせに一緒に物語を作りませんか」と綴り、資格は「現在勉強中です」、好きな言葉は「見るまえに翔べ」。還暦前の新入社員体験によって芸の幅も広がりつつある。次回の同企画は6月に想定されている。